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徐々に意識がはっきりしていくにつれ、ぴちゃん、ぴちゃん、と水の滴る様な音が聞こえ、湊は重い瞼を開いた。 長い間閉じられていた瞳は、光の眩しさで視界がクリアになるまで少し時間がかかった。 「ん…ここ、どこ…?」 漸く視界がはっきりして周りを見渡すも、その部屋にあるのは湊が寝ていたベッドだけだった。 部屋には窓もなく、光と呼ばれるものはベッドの枕もとの壁に備え付けられている一際明るさを放つ蛍光灯のみ。 眩しかったのは、恐らくこの蛍光灯のせいだろう。 コンクリート素材の無機質な…まるで牢屋の様な部屋に言い知れぬ恐怖を感じる。 「なに…?ここ…」 ひんやりとした空間に、背筋がぞくりとした。 不気味すぎる異様な雰囲気に戸惑いながらも、ゆっくりと体を起こして辺りを見渡す。 「なんで俺、こんな所に…」 来た事も、見た事さえもない場所に、不安は募るばかりだ。 酷かったはずの頭痛と体の怠さが消えている事に不思議に思いつつも、突如感じた人の気配と同時に部屋の扉が開いた。 「湊、目が覚めたか?」 「と、とう…さん?」 人間は本当に驚いた時に声が出ないとよく耳にするが、それが今日ほど当てはまるのは初めてだった。 部屋に入ってきた人物は、10年間一切の連絡もなく、たった一人の子供を公園に置き去りにした湊の父、朋也が立っていた。 最後に会った時よりも、少しだけやつれた様に感じはしたが、あまりの驚きに湊は声を出せず、ただ朋也を真っ直ぐに見つめる事しか出来なかった。 「具合はどうだ?薬を飲ませたから、もう熱は下がったはずだけど…。」 あまり寝てないのだろうか、朋也の目の下には隈が出来ていた。 真っ白のシャツと同じ白のスラックスをはいた朋也は、昔と変わらない優しい笑みを浮かべながらベッドに近づくと、湊の頭を優しく撫でる。 「ほん、とうに…父さん…?」 小さい時に何度も撫でられた大きくて暖かい手は今も変わっておらず、自然と涙が込み上げてきてしまった。 「当たり前だろ?…湊、今まで一人にして悪かった。そして、お前を騙して…本当にごめんな?」 涙を流す湊を優しく抱きしめると、昔の朋也との思い出が蘇ってきた。 それはまるで、ビデオテープを巻き戻しするかの様に――。 湊は、懐かしい朋也の温もりに答えるように抱きしめ返した。 「父さんの馬鹿ッ!!俺ッ…俺ッ!母さんだけじゃなくて父さんまでいなくなって、本当の本当に1人になったってッ…!!ずーっとそう思ってあれから生きてきたんだよ!?」 糸が切れた様に涙が次々と溢れてくる。 とめどなく溢れてくる涙は、湊の頬を伝って朋也の服に染みを作ってしまう。 湊は、今までの悲しみや辛さをぶつけるように朋也に言い放った。

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