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もちろん久堂の家の中は、前にも増して両親の罵声と暴言の数は増していった。 物理的な暴力をされている訳ではない。 だが、物理的な暴力よりも、言葉の暴力が一番きつくて辛いのだと龍司は身に染みて思った。 「龍司!!!お前は何度同じミスを繰り返せばわかるんだ!!母さんは子供が出来にくい体質だったのもあり、久堂の為に、数いる私の愛人の中から優秀な女を選んで寝て、漸くできた長男なんだぞ!愛人の子供は所詮その程度だという訳か!?そんなクズは久堂にはいらん!!」 ああ おれはなぜ、ここにいるんだろう 「なんであなたのような汚らわしい子供が残って、百合亜がいないの!あなたが出ていけばよかったのよ!薄汚れたどこの女かも知らない下半身の緩い泥棒猫から出来た子供なんて…っ!私に近寄らないで!!あなたの様な子なんて、産まれてこなければよかったのよ!!百合亜に男の子が産まれたら、その子に久堂を継いでもらうわ!そしたらあなたは私たちの前から消えて頂戴!!」 あぁ なぜおれは、ここに存在しているのだろう 自分自身の価値が、ここの家にいる限り分からなくなってしまう。 もう、俺の心はボロボロだった。 ―…だれか、おれをたすけてくれ… 必死に、縋りつくように見えない誰かに助けを求めてしまう。 俺は、このまま闇に堕ちていくしかないのだろうか 俺は―… 久堂の後継者のためだけに産まれた訳じゃない。 俺の人生は俺が決める…俺にだって存在価値はある。 闇に呑み込まれ、支配されそうになった龍司を、唯一”普通の龍司“に繋ぎ止めてくれる存在は百合亜だった。 百合亜は家を出てもなお、龍司の事を心配してくれていた。 毎日毎日、夜10時に百合亜からくる電話は日課になりつつあった。 『龍司!あなた大丈夫!?お父様とお母様にまた酷い事を言われてるんでしょう!?』 龍司の声色と雰囲気から、どういう状況なのか…勘のいい百合亜はすぐに気付いた。 受話器越しからも心配してくれているという事が伝わって来る。 「…だいじょうぶだよ、ねえさん。…おれは、だいじょうぶ」 百合亜に伝わるように、自分に言い聞かせるように言葉を発する。 ねえさんは、久堂から離れて幸せに暮らしてるんだ、それなのに、おれが邪魔をしちゃいけない。 おれのせいでねえさんを困らせては、だめだ…。 「龍司!…前にあなたに言ったでしょう!?私があなたを守るって。…だってあなたは私の可愛い弟なんだから…!私の弟はあなただけなの!大切な弟なのよっ…!お願いだから自分で全てを抱え込まないで私に言って!?」 「っ…!!」 あぁ やっぱりねえさんはねえさんだ。 俺に唯一優しい言葉と、愛情をくれる。 呑み込まれそうになる俺を、必死で繋ぎ止めてくれる。 ねえさんは光の様な人だ… 溢れてくる涙を必死で止めようとするが、無理だった。 百合亜の言葉は、龍司の心を包んでくれるには充分すぎるもので、無意識に溢れて来た涙が静かに頬を伝う。 「――ありが、とう…百合亜ねえさん…っ」 だから、声が震えない様に返事をするだけで精いっぱいだった。 泣いているのを気づかれないように…

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