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あんたに…家族に愛されて育ったお前なんかに、おれの何が分かる…ッ 「俺にも、なにか力になる事があればいつでも――」 「あんたにおれの何が分かる!!!!」 目の前のテーブルを両手で叩きつけ、龍司が立ち上がる。 振動でぐらぐらとテーブルの上のカップが揺れた。 「…龍…っ」 「…知った様な口をきくな!!あんたに同情なんかしてもらわなくてもいい!おれはもう誰も信じない!それは両親も同じ事だ。ねえさんと結婚したからと言って、図に乗るな!!」 ―――しまった。 乱れる息を必死で整えながら、少しだけ頭にのぼった血が覚めてくる。 ハッと我に返った龍司は慌てて口元を手で押さえ、驚いた表情のまま固まっている朋也から視線を逸らした。 今まで自分の感情を抑えてきたのに、朋也が相手だとまるで感情のコントロールが出来なくなる。 ――父さんや母さん相手にはコントロールで来ていたのに…っ 頭に血がのぼったとはいえ、とんでもない事を口走ってしまった。 気まずさで視線を逸らす。そして同時に脳裏に浮かんだのは、両親の顔だった。 もしこの失態が洸太郎や亜矢子にばれる事があれば、何を言われるのか分からない。 考えるだけでどうにかなりそうになった。 居心地が悪そうに唇を噛みしめる龍司と朋也の間に沈黙が流れる。 どれくらい沈黙の時間が続いただろうか、朋也が静かに話し始めた。 「ごめんね…余計な事を言って」 「っ…い、いえ…。おれの方こそ失礼な事を言って…もうしわけありません…っ」 朋也が自分用に持ってきた紅茶を数口飲むと、切なげに龍司に微笑んだ。 「俺ね…妹が1人いるんだけど、女の子には後継者は無理だから、会社の事とか家柄の事で両親に厳しく育てられてきたんだ。…だから龍司くんの気持ち少しだけ分かるような気がして…」 「え…?」 どこか切なそうな表情を浮かべる朋也に、龍司が視線を向ける。 あれだけ気に入らないと思っていた朋也の心の中の一部が、少しだけ垣間見れた気がした。 「あ!でも、龍司くんみたいに酷い訳ではなかったし、龍司くんの気持ちが全部分かる訳ではないんだけどね…。余計な事言ってごめんね?」 「…。」 龍司はなにも答えず、じっと朋也を見つめる。 「始めて会った時から思っていたんだけど…龍司くん俺の事嫌いでしょ?」 「…は?」 こいつ…気づいていたのか? いきなり図星をさされた龍司は、探るように朋也を見つめたまま顔を背ける。 「――いえ。…そんな事は…」 「…君は勘が鋭い…。恐らく俺を嫌いだと思ったのは、俺が何かを隠している…そう思ったから。…違う?」 「っ…!」 次々と自分が思っている事を当ててくる朋也に、思わず顔を上げる。 信じられないと目を見開く龍司に対して、朋也はまだ笑顔のままだ。 一体この男は、なぜそこまで笑顔でいられる事が出来るのだろう、と龍司には不思議で仕方がなかった。 「…気づいていたんですか?」 龍司は、目を逸らさずストレートに返事をした。

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