48 / 89
31
あんたに…家族に愛されて育ったお前なんかに、おれの何が分かる…ッ
「俺にも、なにか力になる事があればいつでも――」
「あんたにおれの何が分かる!!!!」
目の前のテーブルを両手で叩きつけ、龍司が立ち上がる。
振動でぐらぐらとテーブルの上のカップが揺れた。
「…龍…っ」
「…知った様な口をきくな!!あんたに同情なんかしてもらわなくてもいい!おれはもう誰も信じない!それは両親も同じ事だ。ねえさんと結婚したからと言って、図に乗るな!!」
―――しまった。
乱れる息を必死で整えながら、少しだけ頭にのぼった血が覚めてくる。
ハッと我に返った龍司は慌てて口元を手で押さえ、驚いた表情のまま固まっている朋也から視線を逸らした。
今まで自分の感情を抑えてきたのに、朋也が相手だとまるで感情のコントロールが出来なくなる。
――父さんや母さん相手にはコントロールで来ていたのに…っ
頭に血がのぼったとはいえ、とんでもない事を口走ってしまった。
気まずさで視線を逸らす。そして同時に脳裏に浮かんだのは、両親の顔だった。
もしこの失態が洸太郎や亜矢子にばれる事があれば、何を言われるのか分からない。
考えるだけでどうにかなりそうになった。
居心地が悪そうに唇を噛みしめる龍司と朋也の間に沈黙が流れる。
どれくらい沈黙の時間が続いただろうか、朋也が静かに話し始めた。
「ごめんね…余計な事を言って」
「っ…い、いえ…。おれの方こそ失礼な事を言って…もうしわけありません…っ」
朋也が自分用に持ってきた紅茶を数口飲むと、切なげに龍司に微笑んだ。
「俺ね…妹が1人いるんだけど、女の子には後継者は無理だから、会社の事とか家柄の事で両親に厳しく育てられてきたんだ。…だから龍司くんの気持ち少しだけ分かるような気がして…」
「え…?」
どこか切なそうな表情を浮かべる朋也に、龍司が視線を向ける。
あれだけ気に入らないと思っていた朋也の心の中の一部が、少しだけ垣間見れた気がした。
「あ!でも、龍司くんみたいに酷い訳ではなかったし、龍司くんの気持ちが全部分かる訳ではないんだけどね…。余計な事言ってごめんね?」
「…。」
龍司はなにも答えず、じっと朋也を見つめる。
「始めて会った時から思っていたんだけど…龍司くん俺の事嫌いでしょ?」
「…は?」
こいつ…気づいていたのか?
いきなり図星をさされた龍司は、探るように朋也を見つめたまま顔を背ける。
「――いえ。…そんな事は…」
「…君は勘が鋭い…。恐らく俺を嫌いだと思ったのは、俺が何かを隠している…そう思ったから。…違う?」
「っ…!」
次々と自分が思っている事を当ててくる朋也に、思わず顔を上げる。
信じられないと目を見開く龍司に対して、朋也はまだ笑顔のままだ。
一体この男は、なぜそこまで笑顔でいられる事が出来るのだろう、と龍司には不思議で仕方がなかった。
「…気づいていたんですか?」
龍司は、目を逸らさずストレートに返事をした。
ともだちにシェアしよう!