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――やっぱり、何度聞いても聞こえる。
一体どういう事だ…?
“…君は勘が鋭い…。恐らく俺を嫌いだと思ったのは、俺が何かを隠している…そう思ったから。…違う?”
家に来た時に、告げられた朋也の言葉が頭を過った。
―――まさかっ…
この下になにか隠している…のか?
龍司は、リビング中をくまなく調べ始めた。
床下を叩いて地下室へ通じる道がないか調べたり、リビングの物を細かく調べ、不自然なものや、地下室に行く手掛かりがないか徹底して調べた。
もしこの下に地下室があるとしたら、朋也が隠している“何か”は相当ヤバイものなのではないか――そんな考えが頭を過ったのだ。
「くそ…!なにか地下室に関する手がかりがあるはずだ…ッ!どこかに…どこかに絶対にあるはずだ…!」
もしかすると朋也は、地下室の事を百合亜に内緒にしているのかもしれない。
仮に百合亜が知っているのなら、こんな手の込んだ事はしないはずだし、地下室にも簡単に行けるはずだ。
見つからない様に小細工をして隠しているという事は、絶対に見つかりたくない何かを隠しているはず。
――見ちゃいけない。
――知ってはいけない。
これ以上はやめておいた方がいいと、脳内で警告音が鳴っている気がした。
それでも龍司は、やみくもに地下に行く入口を探す。
頭では分かっていても、自然と体は動いてしまっていた。
今更引く事は出来なかった。
そして、リビングの端に設置された本棚に手を伸ばした時だった。
――ふいに違和感を感じた。
木目調の本棚は、扉がガラスで出来ていて、分厚い英書が綺麗に並べてある
読書をする事が好きだった龍司は、家に来てすぐにこの本棚には気付いた。
朋也に聞いてみれば、趣味で集めている英書だと教えてくれた。
久堂の仕事の関係上、外国人との交流も多く英語の勉強中だった龍司は読んでもいいかと訊ねた事があった。
『ごめんね。その英書は今は手に入らない希少価値が高いものも多いから貸す事が出来ないんだ…。本当にごめんね』
朋也が申し訳なさそうに言ったのを覚えている。
「そう言えばこの本棚は調べていなかったな…。少し調べてみるか」
扉を開けようと取っ手に手を伸ばし、引っ張る。
しかし、鍵がかかっているようで扉は開かなかった。
「鍵がかかっているのか?」
コレクションとして集めているものらしいし、鍵をかけるのは分からなくもない。
しかし、他人に触らせたくないコレクションのものを、自分以外が出入りする事の多いリビングにわざわざ置くだろうか。
本当に大切な物であれば、自分の部屋に設置した方が誰も触るような事もないし絶対に良いに決まっている。
それなのにもかかわらず、ビングに設置して、百合亜しかいないこの家で鍵をかける意味はどうしてだろう。
朋也の考えている事が分からなかった。
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