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翌朝 洸太郎の言った通り、久堂のオフィスビルには月嶋の社長である月嶋遼(つきしまりょう)が訪れた。 11時から始まった打ち合わせ会議は1時間もしないで終わり、遼は仕事が多忙らしくすぐに自社ビルへ帰っていった。 真っ黒の短髪の髪をワックスで固めていて、中肉中背といった風貌の遼は洸太郎と違い優しそうな表情の男だ。 そして、何故かは分からないが、龍司は遼には気に入られているようだった。 洸太郎や亜矢子と違い、とても親切にしてくれる。 しかし、百合亜以外に優しくされた経験のない龍司は、その度にどう対処したらいいか分からなくなってしまっていた。 作り笑いを張り付けて言われたとおりに挨拶を済ませ、洸太郎から与えられた仕事を淡々(たんたん)とこなしていく。 龍司の年齢であれば、普通なら学校に通ってるはずの年頃だ。 だが、洸太郎には「学校に行く暇があるなら仕事を覚えろ」と言われていたため、学校には行かせてもらえなかった。 もちろん、仕事をしていく上で大事な勉強はあるため、パソコンを使った通信での勉強を仕事の隙間でしているといった形だ。 だから、龍司には友達と呼べる人間は1人もいなかった。 あえて孤独にさせようとしているのか…洸太郎の意図が分からなかったが、通信の勉強というのは思った以上に退屈なものだった。少し考えれば答えがすぐに分かってしまうからだ。 龍司は小学生用の科目の勉強はすでに終わっており、今勉強してるのは大学用の勉強だった。 大体16時程で会社の仕事はほぼほぼ終わる。 洸太郎からの教えも終わり、16時から業務終了時刻である18時30分まで、通信での勉強を龍司専用の部屋である副社長室で行う事が日課になっていた。 「…もうこんな時間か。そろそろ出ないとな」 壁掛けの時計を見れば18時30を過ぎており、溜息(ためいき)をつくと重い腰を上げる。 椅子の背もたれに掛けてあったジャケットを羽織ると、テーブルの脇に置いてあるビジネスバッグにパソコンや書類などを仕舞った。 部屋の入口にあるタイムカード付きのタッチパネルを操作し、洸太郎に届くようになっている就業終了の報告ボタンをタッチする。 いつもなら承認に時間がかかるのだが、洸太郎からはすぐに認証OKの返事が返ってきた。 「月嶋のご令嬢との食事会を気にしているのが丸わかりだな…」 呆れた様に溜息をついて部屋を出て行った。 「龍司様、レストランまで案内致します。」 「驫木(とどろき)…、わるいな」 ビルのエントランスを抜け外に出れば、目の前には見覚えのある黒塗りのベンツが止まっていて、後部座席の扉の前には専用ドライバーの驫木(とどろき)が立っていた。

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