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ビルからレストランまで歩いても5分ほどで行けるため、車を使う程の距離ではないが、何かあったらどうするのですかと龍司を心配する驫木の申し出に甘える事にした。
穏やかで優しい性格の驫木は、一緒にいると不思議と落ち着く。
驫木は、百合亜以外で龍司に優しく接してくれる人物の一人でもある。
気を使わないでいい驫木の存在は龍司にとって救いでもあった。
優しく微笑む驫木に、龍司も自然と表情が緩んでしまう。
「さぁ、冷えますので車の中へどうぞ…」
開けられた後部座席に乗れば「ありがとう」とお礼を言う。
にこりと微笑んだ驫木が扉を閉めて、運転席へと乗り込んだ。
車内はエンジンをずっとかけていたのだろう、暖房の温度は丁度良い暖かさだ。
包まれる様な暖かさに安心さえしてしまう。
これから行く食事会さえなければ、どんなによかっただろうと窓の外をじっと眺めながら思った。
「…驫木、おれが会社を設立したら、久堂財閥専用ドライバーとして長く働いているおまえは、おれの元に来てくれるか…?」
20年もの長い間、久堂財閥で働いている驫木は恐らく来てくれる事はないだろう。
いくら龍司に忠実だとしても、雇い主である洸太郎を裏切る様な事は出来ないはずだ。
洸太郎が代表になった時から働いているらしい驫木は、龍司よりも会社については詳しい事も多い。
窓から外を見たまま静かに驫木の返事を待つ。
分かっている事だが、驫木の口からはっきり答えを聞きたかった。
「…龍司様。以前も申し上げたはずです。どんな事があろうとも、私は龍司様の味方ですと…。」
「…驫木っ!…おれが言いたいのはっ…」
「龍司様がお考えになっている事は分かっております。洸太郎様を裏切る事は出来ないのではないか…そう思われているのでしょう?」
「!!」
「…洸太郎様が社長になられた時から、私は長年ドライバーとして働かせて頂いておりますゆえ、様々な事を見てまいりました…。その事を踏まえて龍司様の味方だと言ったのです。」
「っ…!」
はっきりと言い切った驫木に、龍司はバッグミラー越しに驫木を見る。
40代半ばとは思えない程その表情は、まるで半世紀を生き抜いてきたかのような疲労感さえ感じられる。
初めて驫木と会った時はまだ黒さが残っていた髪は、今では真っ白だ。
驫木の表情を見て分かってしまった。
もしかしたら驫木は、洸太郎のやり方をよくは思ってないのではないかと。
洸太郎のやり方を最初から見てきた驫木だからこそ思う所があるのではないのかと。
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