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「悪いが、19時にここで女性と待ち合わせをしているんだ。予約名は久堂財閥の“久堂龍司”だ。座席は最上階の個室VIPルームが予約席。これでも入れないと言うのなら、今すぐにここの責任者を呼んでくれ。」 「えっ…!」 「あんた、写真付きの予約リストは確認しているのか?ドレスコードだけ着こなしていても、予約リストの来店客の容姿を把握してないなんてスタッフとしてどうかとおもいますが…?」 久堂財閥の言葉を言った途端に分かりやすいくらいに顔面蒼白になった男が硬直する。 突き出した名刺を仕舞うと、固まった男の腕を引っ張って引き寄せる。 「――見た目だけで客を判断するな。――それでは、時間が遅れるので入らせてもらいます」 「も…申し訳ありませんっ!!久堂財閥の方が来るとは聞いていましたが…まさかご子息だとは…ッ!」 男が我に返った途端、勢いよく頭を下げた。 客を見た目で判断するスタッフを入口に配置しているなんてな…。どうやらここの責任者は余程人を見る目がないんだろう。 何かを言いかけた男を一瞥し、無視したまま中に入っていく。 薄暗い店内は、外観と同じく黒で統一されていた。 床は全て大理石でできており、壁は全て黒のタイル張りされた壁という高級感あふれる造りだ。 天井は全て鏡張りになっていて、吊るされたシャンデリアには幾つもの宝石が埋め込まれているようでキラキラと輝いている。 証明は薄暗く設定をしているのだろうか、僅かな明かりで光る宝石が鏡に反射しているおかげで、なんとも美しい雰囲気を作っているようだった。 「すみません、19時に予約している久堂と申します」 エントランスに入ると奥の方に受付が見え、待機していた女性に話しかける。 「いらっしゃいませ、この度はご来店ありがとうございます。個室VIPルームを予約されている久堂龍司様ですね。今案内するものをお呼びいたしますので少々お待ちください。」 入口にいた男とは違って龍司を見ても変な顔はせずに、すぐに笑顔で応答してくれた。 受付の女性が対応出来て、入り口の男は対応できないなんて事があるのかと、少し呆れてしまう。 受付の女性は耳に装着されたヘッドフォン型無線機でどこかに連絡すると、受付の奥の扉からぴっちりとスーツを着こなし、メイクを施したポニーテールの女性が現れた。 「お待たせいたしました、久堂様。ご案内いたしますのでこちらへどうぞ…」 どうやらこの女性が部屋まで案内をしてくれるらしい。 深々とお辞儀をするや否や、受付近くのエレベーターへ案内される。 龍司はエレベーターに乗ると、続いて女性も乗り最上階の30階のボタンを押した。 エレベーターの中は全てガラス張りで出来ていて、外の景色が360度丸見えだった。 慣れない浮遊感と、尋常じゃない高さから見える外の景色に少しだけ気分が悪くなる。 宝石の様に光り輝くライトが光る夜景は綺麗なものだったが、今この状況でじっくり見る程の余裕はない。 なるべく外を見ないようにするが、どこを見ても外が自然と見えてしまうため、唯一ガラス張りではないエレベーターの扉をじっと見つめるしかなかった。

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