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「…七瀬さん。おれの様な人間を好きになって頂いて、すごく嬉しいですし、光栄です。…しかし、申し訳ありません。おれはあなたの様な、可愛らしい方に好かれていい人間ではありません。」 「そ、そんな事ありませんわ…!!龍司様はとても素敵な方です!」 「七瀬さん、お気持ちは凄く嬉しいのですが、おれはこれまで人を好きになった事がありませんし、人に愛された記憶も殆どありません…。月嶋財閥のご令嬢である貴女に、愛される程器のある人間でもありません。…それにおれは…初めて会った人を好きになる事は出来ませんので…大変申し訳ありませんが、今回の婚約のお話はお断りさせていただけないでしょうか。」 「ッ…!!だ、だったらこれから好きになってもらえるように、私は頑張ります!」 「…。」 「だからお願いです!!私はあなたの事が本当に好きなんです…!あなたとなら結婚したいと思ってお父様に頼んで、久堂財閥の久堂社長に話を通してもらったんです!」 …やっぱり、そう言う事だったか。 諦めてもらおうと思ったが、そう簡単にはいかないらしい。 自然と、なるべく七瀬が傷つかないように優しく断るのはかなり難しい。 洸太郎に食事会の話をされた時に、婚約は確定だと言われていた。 しかし、龍司は最初から洸太郎の言うとおりに動こうとは思っていなかった。 始めから断るつもりで来ていたからだ。 冷たくはっきりと言った方が七瀬には伝わると思うし、直ぐに決着は付くだろう。 だけど、今ここで七瀬を冷たく突き放してしまったら洸太郎になんて言われるか分からない。 下手すると最悪、家を追い出されるかもしれない。 龍司が一般的な家庭に産まれた人間であればそれでも良かった。 だが、そうじゃない。 久堂財閥と言う大きな財閥の家庭に産まれてしまった。 地位も名誉も、資産も、色んな所への繋がりもある。 言い方を気を付けないと、七瀬を怒らせてしまう。 そんな事になれば、洸太郎に話が行ってしまい、実行予定の計画も何もかも全て白紙になってしまう。 それだけは困る。 ――ここは上手い事、時間稼ぎをするしかないな…。 「――…わかりました。それでは一つだけ条件を出させていただいてもよろしいでしょうか?」 「条件…はい!なんでしょうか!なんでも仰ってください!」 「――おれが七瀬さんを好きになれば、あなたと婚約します。」 「っ…!!本当ですか!?」 嬉しそうな表情で七瀬が立ち上がった。 衝撃でテーブルに置いてあった食器やグラスが揺れる。 龍司は七瀬を見つめたまま続けた。 「――ただし、期限を設けさせていただきます」 「期限…ですか…?」 「期限は、俺が20歳になるまで」 「っ…!!」 「20歳までにおれがあなたを好きになる事がなかったその時は―――…おれの事は諦めてください…。」

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