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第4話
一晩だけの相手を選ぶのは、
後腐れなく始まりと終わりを迎えられ、
面倒事が無く
人肌と性欲を早々に消費できるからだった。
それなのに、まさかインターンとは言え
後輩をベッドに誘うのは
明親にとっても想定外だった。
「アキチカさん、俺。」
郁哉から同属の匂いはしなかった。
ノンケをわざわざ口説き落として、抱いてくれと言う労力すら明親には面倒だった筈なのに。
「あんたを、抱いてもいいですか?」
誘ったのは、そういえば郁哉からだった。
明親も酔っていたし、何より好みの男だった。
可愛い弟系かと思いきや、
その身体は服越しでも分かるほど鍛え上げられていて時折見せる、真剣な瞳が有能な男である事を表していた。
これでも酔って、目先の欲に囚われた頭で
一応は考えたのだ。
このインターンとも、今日で最後。
最悪、翌朝ホテルのロビーで何食わぬ顔をして
"じゃあ、学校と就活頑張れよ"と
先輩面をして立ち去れば良いのだと、
結論付けて、結局先を促す事にした。
「来年26の男を、抱けるのかよお前。」
「はい、既に夢で何度も。」
「バカだな高崎。」
「俺も、こんな事は初めてです。
男の抱き方一から教えてくれますか?」
その瞳は、真剣で少し震えている。
「良いよ行こうか、"郁哉君。"」
わざと、名前を呼べば
ハッとした様な表情で明親を見てきた。
「呼び捨てにしてくださいアキチカさん。
俺は、あんたをめちゃくちゃにしたいんです。
その余裕そうな顔が、蕩けるのを見てみたい。」
その瞳は、
最早可愛い学生インターンとは言えなかった。
ギラつき飢えた若い雄、そのものだった。
好みの男にそんな風に迫られては、
もう明親に断る余地は無い。
夢中で求め合い、身体中の熱が沸き立ち
体力と精の尽きるまで際限なく求め合った。
「郁哉..ふみゃ...っ、」
「アキチカさ、ん」
◯◯◯◯◯◯◯
「怖かったんだ、よ。」
あれから6年が経ち、
顔すらも忘れていた男にまた抱かれる事になるとは思っても見なかった。
すっかり、快楽の震えも収まった身体を
ぬるめのお湯に浸けながら明親がぽつりと零した。
「将来有望な若い男を、
僕なんかに縛り付けるのが。」
背中を預ける様にして、
二人で入る浴槽は少し狭い。
「あの時はまだお前は詳しく知らなかっただろうけど、裏でお前を仮内定させる事は決まってた。しかも、飛び級並みの人事でな。」
「そうだったんだ。」
そうだよ、と明親が大きな溜息混じりに頷く。
「まさかインターンに、先越されるなんて思わなかったんだ。」
「え?」
「本社勤務のバイヤー。
一番早く音楽も映画も観れるんだよ。
僕も、なりたくてさ。
それで、自分で観て聴いたものが、
店に並んで売上伸ばすなんて最高に楽しい仕事だなって。」
それを目指した時の、興奮も熱意も
まだ明親は覚えている。
「でも所詮、高卒平社員。
いくら叩き上げでも、
敵わないなぁって思えちゃってさ。」
明親が8年、現場で仕事のイロハを染み込ませる間に郁哉は、学歴を積んでいた。
実力に差があるのなら、
まだ明親にも有利だったが
それすらも飛び超えて、若い才能は先へ進もうとしていた。
少なくとも、
明親には遠かったものが、
郁哉の眼前には造作も無く、道を指し示したのだ。
「すみません。」
「お前は悪く無いよ。
僕が勝手に負けたくなくて、焦ってただけだから。」
「それで、あのメモだったんですね。」
「ああ。」
あの6年前の熱い情事の最中、
"あんたの連絡先が欲しい。"と郁哉は言った。
勿論、会社から支給されたガラケーの番号ではなく、三浦 明親の個人番号を。
明親はそれを、
抽送に紛れて聞こえないフリをした。
そして、日が昇り始めた頃に
ランドリーに出していた二人分の服を回収し、
テーブルの上にホテル代と、一枚のメモを置いて部屋を出た。
"仕事も勉強も頑張れよ秀才くん。
インターンお疲れ様。僕も頑張るよ。 明親"
ちゃぽん、と湯船のお湯が揺れる。
郁哉が腕を伸ばして、年上の格好良い男を捕える。
「今なら、電話番号教えてくれますか?」
「ガラケーのか?」
「違う。それは、俺の知りたい番号じゃない。」
あれから6年、やっと探し出したというのに、目の前の男は余裕綽々の様に見える。
子供っぽいとは思ったものの、
衝動は止められない。
郁哉はがぶり、と
目の前の白い首筋に甘く軽く歯を立てる。
「ン...っ、」
「あんたのプライベートの番号を、教えて。
じゃなきゃ、
今度はココに俺の歯形を付ける。」
「痛そうだ。」
「試してみる?」
郁哉はまた、べろりと舐めあげ皮膚に歯を立てる、と顎に力を入れるより早く
明親が反応した。
「わかった!言うよ、言う。」
「俺の勝ち。」
いくら明日は、休日だろうと
流石に、首に歯形は良くないと明親は思う。
これでも、
呼び出しがあるかもしれない立場なのだ。
そして、ふと疑問に思った。
「お前、うちのバイトの高崎君と知り合いか?」
「え?」
「苗字一緒だろ?
というか、お前今うちで働いてるのか?
そんな話、聞いたことないぞ?」
そもそも、6年も音信不通の元インターンが
どうしてこんな地方の田舎にいるのか、
明親には見当もつかなかった。
「何も、聞いてないの?」
「ん?あぁ、大阪出身って事くらいかな?」
「あいつほんまアホかっ、」
先程から、この高崎郁哉という男は
感情的になると、方言が出てしまうらしい。
聞きなれないイントネーションとドスの聞いた声に、明親は戸惑ってしまう。
「郁哉、くん?」
「とりあえず、
風呂上がりましょうアキチカさん。」
「あ、あぁ。」
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