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第6話

本当に分かっていない。 こんな美味そうな尻、他にはないのに。 キメが細かい肌は、ずっと撫でまわしたくなるし。 運動嫌いのせいか、肌が薄くて色素も薄い。 ずっと女役に徹しているせいか、元々のホルモンの影響か、全体的に毛も薄い。 男を抱いているという感覚は、正直あまりないのかもしれない。 女の子独特の丸みはないけれど、男という一括りに収めるには無理がある。 そんなはみ出した存在が、堪らなく愛おしい。 「日向、大丈夫か?」 気遣ったフリをしながら素早く脱がせると、既に勃起した性器が期待に震えていた。 さっきイったばかりなのに、本当にやらしい身体。 汗が噴き出るように流れ、それを舐めると白い目で睨まれた。 その目つきすら愛おしくて、瞼にキスを落とす。 ――こんなに可愛いのに、なんで日向は警戒しないんだろう? 過保護にし過ぎだとサボさんに呆れられたが、そのことが原因な気もする。 俺が少し離れた位置から見守れば、日向も変わってくれるんだろうか……? だから我慢して我慢して一定の距離を保とうとしたら、ふらりと遊びに出掛けてしまった。 逃げられてしまいそうで、怖い。 また捕まえられる自信がないから。 ずっと俺の視界の中で、ずっと腕の中に閉じ込めておけるなら それに越したことはないのだけど……。 付き合っているのに、好き合っているはずなのに いつも何かに追い立てられているようで、不安だった。 日向の視線が俺じゃない男に向かう時、俺の知らない日向を知る時、俺じゃない誰かに向けて笑顔を振り向く時 言いようのない不安に駆られる。 視線を、全てを独り占めにしたい。 この前朝帰りした日向は、香水と酒の匂いでいっぱいだった。 いつも嗅ぎ慣れているシャンプーの香りは消え、俺の匂いも全くしない。 それが何だかとても嫌で、言葉で表現することが難しい程苛立った。 面と向かって怒れたらよかったのに、怖くて誰といたのかも聞けなかった。 それを見透かされるのがもっと嫌で、虚勢を張る。 プライドが邪魔して、全然素直になれない。 ――ホントに、馬鹿だ……俺。 濡れた瞳で先を促す日向に、遠慮なく齧り付く。 久しぶりに、こんな風に感情をぶつけた気がする。 日向はいつも以上に熱を発し、鼻にかかる艶声が脳に響く。 噴き出る汗はじっとりと身体を纏い、肌がいつもよりも輝いて見えた。 上気した表情で見つめられるだけで もう、ヤバイ。 焦る気持ちが加速して、日向が操り人形のようにガクガクと前後する。 病人なんだから優しくしなきゃと思いながらも、嗜虐心が支配する。 すごく大事に優しくしたいと思いながら、思い切り壊してしまいたくなる衝動。 自分でも情緒不安定だという自覚はあるが、これが俺なんだから仕方がない。 「ゲイって、こんなもんだよ。」 日向からたまに出てくるワードに、俺はいつも頭を傾げる。 友達なのに平気で尻を揉みあい、ハグは挨拶。 たまに頬にキスをしてくる奴もいて、つま先を思い切り踏んづけてやると、焦った日向に止められた。 これがゲイの普通だと言われてしまうと、怒る俺がおかしい気がして怒るに怒れない。 ――いや、まー……普通に怒るけど。 こんなものだと言われると、嫉妬する俺が馬鹿みたいで。 嫉妬深いと言われると、嫉妬しちゃいけない気がして偽装する。 偽装すると無理が出て、その歪みを補正しようとさらに無理が出る。 ――俺のなのに、こんなに我慢しないといけないのか? なんだか、最近妙にイライラする。 何をするにも気が散って、課題もなかなか捗らない。 耐え忍ぶなんて俺の辞書には載っていないし、こんなの柄じゃない。 こんなの俺じゃない。 他人がどうこうではなくて…… 自分の物差しで測るのは、そんなにいけないことなのか? だんだん苛立ってきて、優しく出来ない。 もともと優しい人間でもないのだから、当たり前と言えば当たり前なんだけれど。 首に齧りつきながら腰を振っていると、手の中の性器が強度を増す。 淫らな声が脳を惑わせ、考えがまとまらない。 床を濡らす汗を見つめる日向の甘い表情を、こっそりと盗み見る。 やっぱり、この顔が堪らなく好きだ。 誰にも見せんな。 俺以外に笑いかけんな。 笑ってしまうほど、心が狭い。 誰かがお前を好きになることが、ものすごく嫌なんだ。 ちらちらと見せびらかす舌を吸い上げ、頭蓋骨に広がる甘い艶声に酔う。 汗で滑る身体をぎゅうぎゅうと抱きしめると、手の平に生暖かい感触が広がる。 ぽたりぽたりと指の隙間から溢れるそれが床を汚し、その上に大きく胸を動かす日向を見下ろす。 「エロい。」 「エロいのはお前だ。」 俺の独り言をティッシュを投げつけながら反論し、またへたりと床に転がる。 上がった息はなかなか戻らず、何度も深呼吸を繰り返す日向に流石に不安になった。 「大丈夫か?」 「空気がおいしい。」 「はあ?」 意味が分からず見つめると、微笑みながら素早く唇を奪われる。 ――むちゃくちゃ可愛い生き物だな、こいつ。 何度でも惚れ直しながら、隣に寝そべる。 日向を真似て大きく深呼吸をすると、日向の匂いが身体の中に沁み込んでくる。 「確かに、うまいな。」 「だろ?」 得意げに笑う日向に微笑み返し、指についた精液を舐めると 病人とは思えない見事なフックが飛んできた。

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