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2-式-

夏休み最後の集中講義が終わった。 午前中から始まって昼を跨ぎ、時刻はもうじき夕方六時になろうとしている。 長時間に渡って洞察力をはたらかせていた学生らは一息つき、大講義室をぞろぞろ後にしていった。 窓際の席に着いていた式はテキストやノートをトートバッグに仕舞い、上げられたままになっていた各窓のブラインドを全て下ろして回った。 教壇で後片付けをしていた教授に礼を言われると、無言で浅く会釈し、ほとんどの学生がいなくなった大講義室を退室した。 今日の書き込みで真っ白なページ数が一気に減ったノート。 アンダーラインで埋め尽くされたテキスト。 それでも自分はちゃんと集中して、講義の内容を理解できていただろうか。 式は少しばかり反省していた。 ざっと復習してみようと、夏休み期間は七時で閉館する図書館へ足を向けた。 キャンパスには濃くなった西日が降り注いでいた。 昼時の日向にいると多少汗ばむこともあるが、日が暮れ始めて吹く風は秋らしい涼感を持ち、屋外にいても過ごしやすかった。 舗道を進んでいた式は茜色に滲む夕空を見上げる。 昨日の日曜日の出来事が頭からずっと離れず、長々と集中力を欠かしている自分に呆れた。 隹と繭名の会話が壊れたレコードみたいに何度も脳内で再生され、その度に胸をざわつかせていた。 二人はそういう関係だったのだろうか。 真剣な付き合いというよりも、いわゆる、セフレという関係。 どちらも外見がよくて、自分に自信があって、男女の垣根を越えてお似合いに見えた……。 妹の恋人が過去に同性と不健全な関係を築いていたかもしれない。 雛未のことを思って隹を軽蔑するよりも先に式はもやもやとした感情を抱いた。 昨日から凪ぐことなく執拗に波打って、夜、不意に鎌首を擡げて眠りを妨害し、不穏な気配を漂わせ、胸の奥底でとぐろを巻いていた。 ……あの人の過去なんか俺には関係ない。 いや、雛未のことを考えたら見過ごせない問題だ……もっと重い前科がある自分に彼を咎める権利はないけれど……。 ああ、嫌だ。 感情が逆立ってる。 いちいち周囲の物事に気を取られたくない。誰とも深い繋がりなんて求めていないのに。 図書館に到着した式は受付カウンターを通り過ぎ、レトロな出窓が踊り場にとりつけられた階段を上る。 次の週末、隹はここにやってくるだろうか。 足元に視線を落として浅く唇を噛んだ。 約束はしなかった。 特に何も言われなかった。 きっともう来ないだろう。 それでいい。 執拗に波打つ胸に促されて零れ出そうになるため息を殺し、二階に上がって窓際の閲覧スペースへ。 この時間帯ならば夕焼けと宵闇のグラデーションがよく見えるお気に入りの場所へ迷わず進んだ。 「隹」 今日、まさかそこに隹がいるなんて夢にも思っていなかった式は、つい、彼の名を初めて呼号した。

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