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気がつけば式はクッションを抱いたまま虚脱していた。
忙しなく瞬きし、もぞりと顔を上げ、びっしょりと水気を含んだクッションを目の当たりにして居た堪れなくなった。
すぐ隣で隹は眠っていた。
下半身には服を着ており、壁の方を向いて浅い寝息を立てていた。
羽毛布団は式にかけて自分は上半身を曝している。
広い肩幅や盛り上がった肩甲骨に式は見惚れそうになり、慌てて視線を変え、壁にかけられた時計で現在時刻を確認した。
もうすぐ三時なんだ。
どれくらい寝ていたんだろう。
式はすぐ隣にいる隹の睡眠の支障にならない程度のため息をついた。
腰に纏わりつく倦怠感に虚脱する前の記憶が打ち寄せてくる。
二回、立て続けに強要された。
とことん向こうのペースに押し流された非力な自分に嫌気が差した。
シャワーを借りて、それから帰ろう。
ここからアパートまで歩いて一時間もかからない。
一度目が覚めると、このままベッドに長居するのも気が引け、式はそっと床に降り立った。
脱ぎ散らかされていた自分の服を掻き集める。
肌寒いので一先ずパーカーを羽織り、最低限の明かりに調節されたスタンドライトがほんのり照らす室内を裸足で進んだ。
「式」
仕切りのドアを開こうとした式は凍りついた。
「起きていたんですか……?」
隹は答えなかった。
キッチンのカウンター横で恐る恐る振り向いた式を寝起きとは到底思えない鋭い眼差しで見据えた。
「俺のことを置き去りにしたらお仕置き、そう言ったよな?」
式は嫌な予感に襲われた。
ここは隹の部屋、彼の領域 。
逃げ場はなく、息を潜めて接近してきた夜行性の如き眼光に心身ともに射竦められてしまった。
「お前が気を失ったからコッチは一眠りして待ってたんだ」
「ほんとに、もう……むりです、おかしくなる」
「おかしくなる? そうか、まだおかしくなってない、つまり余力があるってことか」
ただ向かい合っているだけで嵐に遭遇したみたいに胸の中が不穏に逆巻いた。
彼に抉じ開けられた体が、腹底に刻みつけられた痕が恐ろしく疼いた。
「こんなの嫌だ」
……あからさまな欲望に乗っ取られて自分が自分じゃなくなるみたいだ……。
「ああ、お仕置きじゃないか、ご褒美か?」
隹に抱き寄せられたかと思えば、尻丘を伝って滑り込んできた指先に後孔をなぞられた。
指の腹が小さな円を描くように這い回る。
少し前、力強く脈打つペニスで散々貫かれていた入り口に微弱な刺激を送り込まれた。
式はもどかしげに身を捩じらせ、彼の昂ぶりが肌身に触れ、息を呑んだ。
抱えていられずに床へ落ちた服。
言葉もなしに体の向きを変えられて式の視界はクリーム色の壁で埋まった。
薄い腹や胸、太腿をもったいぶった手つきで撫でられる。二つの膨らみまで転がされて丁寧に揉みしだかれた。
「っ……そんな、ところ……」
「あんたの種が詰まってる」
式のパーカーをたくし上げた隹は滑らかな尻丘に服越しに股間を押しつけた。
「俺の種も、ここに」
衰えることなく雄々しく息づく昂ぶりの感触に、式は、もう喘ぎそうになる。
服をずらした隹に直に当てられると、触れ合う場所がじゅくじゅくと熟れていくような悩ましげな錯覚に苛まれた。
「だ……だめ……それ……つけないでするなんて……っ……ん、ぅ、っ、ぅ……ン……っ」
薄膜越しではない、生身の隹がやってきた。
何の隔たりもない露骨な交わりに仮膣を支配され、式は壁をカリカリと引っ掻いた。
「猫みたいだ」
「あ……あ、ン……ゃぁ……っ」
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