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第10話 遊ぼ(後編)

真っ黒な遮光カーテンの為、昼間でも暗い室内。その中で淡く光るノートパソコンのディスプレイ。 休む間も無くタイピングを打つ白い指。敷きっぱなしの布団の上に足を崩してぺたんと座り込み頭巾のように毛布を被って一心不乱にパソコンと向き合う人物は最近、日曜になると訪ねてくる事の多い来客の鳴らすチャイムに指を止めた。 「…また来た」 上下とも白い緩めのパジャマ姿で毛布を被ったまま立ち上がると幽霊のようにズルズル毛布を引きずって玄関へ続く廊下を歩く。覗き穴から来客を確認して、鍵を外す。しかし内側のチェーンロックは掛けたまま少しだけドアを開けた。 HeimWald3-B号室。数度目の来訪で漸く開いたドアに笑武は嬉しそうに姿勢を正した。 「あ、あのぉ…」 「…はい」 「俺、1-B号室に越して来ました栄生って言います、栄生笑武です」 「…あー」 それを聞いてチェーンロックを外しドアを押し開ける住人。来客相手でも毛布は被ったままだ。 「っ…!!」 色白と言うか蒼白く見える肌。手入れのされていない肩下まで伸ばしっぱなしの銀髪。奥二重の大きくて虚な紫の瞳は目蓋が重めのせいか常に眠そうに見える。そして目の下にはクマ。上下とも白いパジャマと華奢な体格のせいで、夜中に遭遇したら幽霊と見間違えるだろう。昼間でも驚く容姿だ。 「3-Bの甚目寺(じもくじ)花結(かゆう)です…よく言われる言葉は…幽霊かと思った、と、名前なんて読むの?です」 「す、すみません!寝てるところを起こしてしまったみたいで」 「いえ起きてましたよ…寧ろ寝ていませんね…昨夜からネットゲームをずっとやっていました」 「ネットゲーム…」 「チャットを打ちながらオンラインで対戦するバトルロイヤルゲームです、楽しいですよ…自分はこう見えて引きこもりではありません…仕事はウェブサイトの顧客情報の入力業務…1人黙々とパソコン作業…とても気楽ですね…あとは投資を少々」 「…俺、パソコンとか学校の授業で触ったくらいで詳しく無いから尊敬します」 「そうですか、それで何の用ですか」 「用と言うか挨拶に…これ、良かったら使ってください」 タオルを受け取ると頷くように頭を下げて礼を表す花結。 「他に何か用はありますか」 「え…あの、今後ともよろしくお願いします」 「はい、宜しくお願いします…以上ですか?」 「以上…です」 「では失敬」 パタン、と閉まるドア。そして直ぐに鍵を掛ける音がした。茫然と立ち尽くす笑武。 「うぅ…やっと治ってきたし」 下の階から聞こえた、その声に笑武はハッと我に返って階段を駆け下りた。 「沙希さん!」 「んぇ?…なんだ笑武か、なんで3階から下りて来んの」 「挨拶回り」 「ああ、どっかと会えた?」 「うん、3-B号室」 「あはっ、幽霊くんな…俺、コンビニ行こうとして夜道で遭遇したからちょービビった事あるし!オーバーサイズの真っ白なパーカー、フード被ってゆらゆら歩いて来たからさ」 「そう言ってた…よく幽霊と間違われるって」 (良かった…いつもの沙希さんだ) 「そうだコンビニ行くんだった…部屋に食べる物なんも無くてさ」 「え!何も?!」 「俺、飲み物以外は買い溜めとかしねぇから」 「少し顔色悪いけど大丈夫?」 「ああ、うん…二日酔い…朝からずっと横になってたから落ち着いて来たとこ」 「そうなんだ…昨夜、玲司さんが沙希さんのこと遅くまで探してたよ?」 「どーせ彼女に言われて、俺の荷物とか部屋から持って帰れって言いたかったんだろ…俺、あいつの部屋、出禁になったからさ」 「え?ち、違う違う!何でそうなったの?!」 階段を一緒に降りながら話す2人。沙希の誤解に笑武は驚いた。 「もういいよアイツの事は…ちょっとだけ悔しいけどさ、俺の負け…一晩、ヤケ酒飲んだらスッキリしたし…別にいい…もう、どうでも」 「どうでも…って、そんな」 「あー…リベルタのホットサンド食いたい…けど、コンビニのパン5個分の値段するからさ、自分じゃ手が出ねぇの」 「買ってこようか?沙希さん体調まだ整ってないなら、部屋で休んでて」 「…あ、ごめん…そういう意味で言ったつもりじゃ」 「分かってるよ…ホットサンドって何種類かある?」 「大丈夫だって!吐き気は治ったし、頭痛もマシになって食欲も出て来たからさ…ほら、元気!」 一階までの階段を数段上から勢い良く飛び降りた沙希の着地先に死角から出てきた人影。 「あ、危ない!」 「!!」 思わず目を瞑る笑武。どさ、と人と人がぶつかる音がして沙希の体は紙袋片手に器用に受け身を取った相手の腕中に抱きつくようにして着地した。 「またかよ!何でいつも降ってくるんだテメェは!」 「…サイアク」 よりによって今は1番、会いたくなかった人物の声がすぐ耳元でして突き放すように離れる沙希。笑武は瞑っていた目を恐る恐る開けて2人の無事を確認すると胸を撫で下ろした。 「大丈夫?!…怪我は」 「してない」 「ああ、大丈夫だ…もう少しで、コレが潰れる所だったけどな」 持っていた紙袋を沙希の胸に押し付ける玲司。 「え…これ」 「そろそろ腹空かしてる頃だろ、嫌なら食わなくていいぜ」 聞かなくても、その食欲に直撃する美味しそうな匂いで中身が何か分かる。libertàの持ち帰り用紙袋。玲司と立ち寄った時に、沙希がよく買って貰うホットサンドだ。顔を合わせたくなかった筈なのに、食べたいという本能でつい受け取ってしまう。 「あ!すごい!これってリベルタのホットサンド?今さっき、沙希さんが食べたいって言って…」 「ば、ばか!余計なこと言うなよ!」 「ちょうどお前の部屋に行くつもりだった…下りてきたなら、こっち来いよ、沙希」 親指で自分の部屋を指差す玲司に、沙希は戸惑いを隠しきれず狼狽る。 「は?…どういうつもりだよ…俺の私物ならすぐ引き取りに行くって…何で、こんなの買って来てくれてんの…訳わかんなくなるじゃんね」 「お前こそ何の話だそれは」 「玲司さん、沙希さんちょっと…というか、けっこうな思い違いしてるみたいだから、とにかく2人で落ち着いて話して…」 「笑武…でも、俺」 「駄目だよ、ちゃんと話さないと」 ぐい、と沙希の背中を玲司の部屋の方に押す笑武。 「来ないって言っても連れて行くけどな」 「っ…」 紙袋を抱えていない方の手首を玲司に掴まれて部屋の方へと連行される沙希に笑武は心配そうに手を振る。 (大丈夫かなぁ…うまく仲直りできるといいけど) 「分かったから、手は離せよ」 「うちのチビ達もそう言って手ぇ離すと、すぐ好き勝手に走り出すんだよ」 「はぁ?!子供扱いするなっていつも言ってるじゃんね!……う…怒鳴るとまだ頭に響く」 「まさか二日酔いじゃねぇだろうな?缶酎ハイ1本で酔っ払う奴が外で飲むんじゃねえよ…お前は酔うとロクな事にならねぇからな」 ドアを開けて、部屋の中に沙希を放り込む玲司。沙希が何か文句をつけた声は閉まったドアで遮断される。 (ほ、本当に大丈夫かな…) 2人の事は心配だったが、自身も貴重な休日。体を休める為に部屋に戻る笑武。 1-C号室。まさかこんなに早く再び玲司の部屋を訪れる事になるとは思わなかった沙希は座り慣れたソファにムスッとした表情で座っていた。膝の上の紙袋は、まだ未開封だ。 「冷めるぞ、とりあえず食っちまえ…話はその後でいい」 「俺はよくない…さっさと私物引き取って帰る!こんなとこ、彼女に見られたらどうするんだよ!ドロボーにメシ食わせてんの知られたら…」 「自分のこと泥棒なんて言い方するんじゃねぇよ!」 「っ?!」 「ぁ…悪い、笑武に落ち着いて話せって言われただろ…腹が減ってると余計に気が立つ…だから」 「……」 カサ、と紙袋を開ける沙希を見てテーブルに買い足したばかりのミルクティーを置く玲司。 「親から色々貰ったからな…お前が食べてる間に片付けて来る」 「……分かった…いただきます」 会うたびに愛息子に持たせる米や野菜などは近くに住んでいても男の一人暮らし生活を心配する親心と、広い農地を持つが故に作りすぎた野菜のお裾分けでもある。 「多すぎだろ…重いと思ったら大根だけで一箱あるじゃねぇか」 ダンボールを開けて少々困り顔の玲司を横目に取り出したホットサンドを口に運ぶ沙希。待望の食事に唾液が溢れる感覚がした。 (悔しいけど、美味しくて止まんない) 人間の生きようとする本能は強い。飢えた空っぽの胃を満たそうと、いつもより早食い気味にガツガツ頬張っては飲み込んでいく。 「詰まらせるんじゃねぇぞ、誰も取らないからもう少しゆっくり食えよ…」 「…見るなよ」 子供の頃、急いで食べていると親に言われた記憶がある台詞。大家族の亜南家ではよく飛び交いそうな会話だと思った。垣間見える家族想いな一面と、そして子供好きな一面。 「野菜は梶本に回すか…」 (…相手選びは下手だけど、玲司の幸せは結婚なんだろうな) それは自国の法律上、女性としか叶えられない幸せ。養子や里子の選択もあるだろうが、生物的に男は子供を産めないのだ。正式な婚姻も現状認められてはいない。 「食費が浮くのはありがたいけどな…うちの親は1人分の量が多すぎなんだよ」 「…彼女の分を考えてるんじゃねぇの」 「かもな、あと週末に代わる代わる泊まりに来る身内とか…お前とかな」 「俺は関係ないだろ…」 「関係ない?俺の身内には俺と同棲してると認識されてるぜ」 「えっ!なんで?…何回か会った事はあるけど、そんな話」 「俺がよく話すからだろ…あと、お袋はカンが鋭い…俺の趣味と違う物が置いてあるとすぐ『誰の?』突っ込んで来るんだよ」 「…俺の話なんかするなよ、母さん心配するじゃんね」 「してねぇよ…寧ろ飢えさせないように養えって言ってたぞ、困った時はお互い様の精神が強いんだよ…大爺は定年後に養育里親もやってたしな…そういうの見てきてるから特にだろ」 「民宿みたいに広いんだもんな、お前の実家…大家族でも部屋余るとか凄すぎ」 「古いけどな…庭の見渡せる縁側は気に入ってるぜ、自分で家持つなら縁側付きがいい」 「あはっ、爺さんぽくて似合いそう…縁側に座って、庭で遊ぶ子供とか嬉しそうに見守ってんの」 「爺さんぽくて、は余計だ」 「良いじゃん…玲司には、そういうのが似合う」 その理想の中に、自分の存在など影すら見つけられない。ホットサンドの最後の一口を飲み込んで、寂しそうに空の紙袋を見つめる沙希。 「足りなかったか?」 「充分…ごちそさま、美味しかった」 「お?少しは落ち着いて話せそうだな…」 よし、と沙希の隣に座る玲司。話をすると言われて急に緊張したのか、沙希は体を離すようにソファの端ギリギリまでズレる。 「…今更、何の話するんだよ」 「なんで端に寄った?不自然すぎるだろ、この距離は…ったく」 端にズレた為、もう後がない。一度立ち上がって距離を詰めると再び隣に座り直した玲司に沙希は顔を逸らした。 「な、なんだよ…別に逃げたりしないし」 「はぁ…お説教は後にした方が良さそうだな、じゃあ先に報告だ」 玲司はキーホルダーから明梨が投げ捨てて行った合鍵を外してテーブルに置いた。 「…それ、合鍵?」 「ああ、明梨が置いて行った分だ…本当は、お前の前で頭下げさせたかったんだけどよ…もうその機会も無さそうだ」 「……置いてったって…何で」 「本当に分からねぇか?」 「だって…一緒に住みたいって言ってたじゃん…玲司も合鍵渡すくらい信用してたのに、何でこうなるんだよ…それなら何の為に…俺」 「俺がいつ一緒に住みたいなんて言ったんだ、それは明梨だけの言い分だろ…見映え気にして身の丈に合わない生活してるから家賃を払ってくれる同居人が欲しかっただけだ…付き合った翌日には、その話して来たしな…そこまで甘やかすつもりはねぇよ」 確かに、同居の話は明梨からしか聞いた覚えはない。玲司と明梨の見る未来は、まだ同じ段階では無かった。玲司の幸せを願って引き受けた罪なのに、沙希は明梨の一方的な欲望だけを叶えようとしていたらしい。この時、沙希は改めて明梨を怖いと思った。 「…それでも、お前なら変えてやれると思ったんだよ…俺を変えてくれたみたいに」 「俺はトリマーだ、調教師じゃねぇぞ?お前が前ほど吠えたり噛み付かなくなったのは、お前が変わろうとしてきた努力の結果だろうが」 「犬みたいに言うなし…俺は、お前に認めさせたくて変わろうと思ったんだよ…だから、お前のおかげで合ってんの…半年前アスト達にヴァルトから出て行けって言われたじゃん…あの時、どっち付かずの住人も居たけど…もう一度だけチャンスを与えてやってくれって、庇ってくれたのはお前だけだった…最初は鬱陶しいと思ってたよ…勝手に仕事紹介されたり、送迎するって言われたり、でも…なんか楽しくなって来ちゃったんだよね…毎日どうにでもなればいいって思って過ごしてたのに、今は…半年前に戻りたくないって思ってる」 「じゃあ何でアス達に与えてもらったチャンスを潰そうとした…俺から金を盗んだなんて知られてみろ、約束通り出て行けって言われるだろうが」 押し黙った沙希。唇が何かを言いたそうに微かに動く。 「…い」 「聞こえねぇな、何だって?」 「…俺……俺じゃ、ない…俺じゃない!盗る訳ないだろ…玲司が家族大事にしてんの知ってるし、勝手にクローゼット開けた事も無い!俺は盗ってない!そのくらい分かれよバカ!」 やっと顔を向けたかと思えばキッと睨みつけた上に、逆上してバカ呼ばわりだ。玲司は苦笑して頷く。 「言えるじゃねぇか…少しばかり余計な事も言ってくれたけどな」 「…今更、信じて欲しいとか…遅いかもしれないけど…俺、頼まれて…代わりに返したんだよ…玲司は優しいから謝って返せば許してくれるって…甘く見てたのは、謝るけど…でもホントに俺は盗ってない…信じてくれてたのに、裏切るような事して…失望させて、ごめん…」 「それでも、お前は明梨の名前は出さないんだな…言えば楽になるだろうに」 「…」 「お前が返して来た新札な、4の番号振ってあったぜ」 「は?…よ、4?!縁起悪ッ!あいつ何してんの?!出産祝いって言ってたじゃん!」 「もらう側は気にしない奴の方が多いと思うぜ、それでも一応な…俺は4は避けて用意した」 「あの時にはもう…気づいてた、って…事?」 「何に」 「……俺の、嘘」 「ああ」 「……ふ、何だよそれ…俺すげーマヌケじゃん」 笑うしか無い。自分を嘲笑して、片手で泣きそうな目元を覆う沙希。 「そうだな、下手な芝居しやがって…沙希、今回は新札に偶然4が入っていたから明梨を問い詰める事が出来たけどよ…もし入って無かったら、どうなってたと思う」 「っ……」 「俺が、お前に対して怒ってんのはソコだぞ…どんな理由があろうと他人の罪なんか軽々しく被るんじゃねぇよ…俺の為にやった事だってのは分かってる…お前は、それが間違いだったって事、ちゃんと分かったのか?」 「…う、ん」 俯いて頷いた沙希の頭をぽんぽんと優しく叩く玲司。 「もう、俺の為に傷ついたりするなよ…頼むから」 「え…」 『沙希…俺は盗みは許してやれてもな、大事な奴を傷つけられて許せるほど優しくねぇぞ』 あの時の玲司の言葉に居た「大事な奴」。明梨だと思い込んで、自分が責められた気になっていた沙希は、それが自分の事だったと気づく。そして許せない相手とは、明梨の方だったのだ。 (やばい…マジで泣きそう) 「ところでよ、お前…昨夜はどこで何してたんだ」 「ぅ、え?!」 その質問に涙が引っ込む。まさか昨夜は玲司と絶交した事の憂さ晴らしに善と過ごしていたとは言えない。 「酒、飲んで来たんだろ?ひとりで居酒屋か?」 (ど、どうしよ…ホストクラブなんて言ったら、善と居たってバレる…ただの遊びだけど、玲司には知られたくない…でも何て言えば…うう、別の意味で泣きそう) 「沙希?」 「う、ん…初めて入った店…霧ノ堀のどっか…」 「霧ノ堀?!…確かに酒場は多いかもしれねぇけど、あそこは夜に出歩くんじゃねぇよ…変な客引きに引っかかったりしてねぇか」 「それは大丈夫…」 「なら、良いけどよ」 止んだ質問にホッとして、落ち着きを取り戻すと目元を覆う手を下ろして玲司を見る。たった1日の事なのに久しぶりに、しっかりと顔を合わせた気がした。 「…あのさ、探してくれてたって笑武に聞いた…ありがと」 「ああ…お陰で笑武とじっくり話せたぜ…アイツ、沙希が金盗ったって言い出したって聞いて何て言ったと思う?」 「…え?分かんない」 「沙希さんじゃないと思います、だって駄菓子の金平糖でも、ちゃんと聞いてから持って帰る人だから…だってよ」 「!」 「良い友達が出来てよかったな、沙希」 「…うん」 嬉しそうに笑う沙希。 「お?やっとまともに笑いやがったな」 「うっさいなぁ!それより姉さんのとこ行ってきたんだろ?赤ちゃん見てきた?」 「ああ、見るか?将来有望だぜ」 玲司のスマホで爽太の写真を見せてもらって、2人で笑い合う。沙希は優しい眼差しで爽太の話をする玲司の横顔を間近に見て、改めて思った。 (そのうちに玲司の隣には、次の彼女がやって来る…そしていつかは、こうやって2人で居られる時間も終わる…この片想いが叶わないのは分かってるけどさ…俺が勝手に、お前を好きでいる事はまだ止められそうに無いから…友達で良い、傍に居させてな) 「…沙希の子供も楽しみだな」 「っ……産んでくれる相手、居ないし」 「はは、そうだったな…俺も暫くはフリーだろうから、デート相手はお前で我慢しとくか」 「あはっ、ちょー美人のデート相手じゃん!玲司には勿体ないし」 「自分で言うな」 「それより今夜、泊まっていい?うちの冷蔵庫空っぽ」 「いいぜ…俺の方は見ての通り、有り余ってるからな」 いつの間にか、仲直り。戻って来たいつもと同じ時間を、沙希は改めて自分の支えだと感じた。 そして玲司も自分の部屋で沙希が寛ぐ姿に安心感を抱くのだった。

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