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第19話 ライオンはカッコいいよな?

『笑武、クリスマスプレゼントは何が欲しい?』 『え…クリスマスプレゼントって?』 『知らないのか?サンタさんからもらった事あるだろ?』 一緒に買い物に行った帰りに大きなクリスマスツリーの横を通り過ぎた。学矢が予想外の事を聞いてきたのは、その時だった。 『知ってるけどクリスマスプレゼントって兄弟で贈り合ったりするものなのかな』 『さあ?兄弟が出来てからクリスマスを迎えるのは初めてだからな』 『そうだね、分からないね』 それは互いに同じ事だ。笑武はクスッと笑って欲しいものを考え始める。 『俺はもう決まってる』 『え!それって…俺のバイト代で足りる?』 『足りるさ、色もデザインも何でもいいからリボンが欲しい』 『リボン?!それプレゼントじゃなくて、プレゼントに付いてくるものだよ』 『そう、だから笑武に付けるつもり…裸にしてね』 『ッ!?』 衝撃の予告。笑武はクリスマスカラーのリボンでぐるぐる巻きにされた裸の自分を想像して赤面した。 『だから色やデザインは笑武に任せるよ、好きなのにして…下着を選ぶみたいにね』 『兄さんのスケベ…』 『今、想像しただろ…ハハッ、可愛いなぁ』 赤い頬を膨らませる笑武の頭を学矢は子犬を褒めるように優しく撫でて笑った。 HeimWaldのクリスマス兼忘年会で交換するためのプレゼント選びにBizFestに来ていた笑武は手芸屋のコーナーにカラフルなリボンのコーナーを見つけて立ち止まる。 「あ…このリボン」 クリスマスらしい赤色に緑縁のリボン。学矢のリクエストに応えるために選んだものと酷似していた。 「あ!笑武兄ちゃんだ!」 「笑武兄ちゃん…」 聞き覚えのある子供達の声に呼ばれてリボンを置くと、振り返る。駆け寄ってきたのは迅地と美鈴だった。キラキラした笑顔の2人が可愛くて、つい頬が緩んでしまう。 (あああ…可愛い!) 「「こんにちは!」」 「こんにちは、2人とも久しぶりだね…お買い物?」 「うん!玲司兄ちゃんがちょっとだけ休日出勤だから、お仕事終わるまで沙希と待ってるんだ!」 「そうなんだ…沙希さん、どこ?」 「あれ…今まで一緒に居たのに」 近くを見渡したが沙希の姿がない。 「沙希兄ちゃんが迷子になっちゃった」 「どうしよう…迷子の呼び出しした方がいいかな!」 泣きだしそうな2人。笑武は2人を安心させるようにスマホを取り出して見せた。 「大丈夫!俺に任せて!」 笑武の連絡から数分で慌てた様子の沙希が手芸屋の前に駆けつけて来た。余程安心したのか声に出るほど大きくはぁ~と溜息を吐いている。 「迅地、美鈴!マジでごめん、一瞬で見失った」 「沙希!はぐれちゃダメだろ!」 「沙希兄ちゃん、心配したよ」 どうやら迷子になったのは沙希の方という事になっているようだ。全国でも最大級のショッピングモールだけあって通路の幅も広いBizFest。視野の死角に入ると少し目を離しただけで同行者を見失ったり、方向感覚が弱くなったりする事がある。買い物中も何度か迷子のアナウンスが流れていた。 「あはは、もう少しで沙希さんが迷子のお呼び出しされる所だったね…玲司さんビックリして飛んできちゃうよ」 「うん、笑武が居てくれて助かった…おもちゃ屋とかすげー探してたし、まさか手芸屋に居るなんて思わないじゃん」 「俺がここに居たから、見つけて来ちゃったみたいで…あれ?ごめん!俺のせいかも」 「んーん、俺が目離したから…玲司よくいつも2人の事見てられるよな…あっち行ったりこっち行ったり、目回りそ」 「そうだよね、好奇心も元気もいっぱいな年頃だから」 「一応、もしはぐれたらリドラに集合って言ってあったけど、これだけ動き回るからいつ集合できるかも分かんないし…」 リドラとはRe:Dragonの通称だ。 「慣れてる場所だと特にね…あれ?2人は?」 「?!」 笑武と沙希が話してる間に、今度は迅地と美鈴が居なくなってしまった。慌てて周りを見回す。 「わー!可愛いリボン!」 珍しく声を張った美鈴のおかげで、手芸屋の中を探索していた2人を間も無く発見できた。 「良かった、居た居た」 「美鈴、このリボンが欲しいんだって」 ピンクのレース生地のリボンはいかにも女の子の好きそうなデザインだ。 「美鈴、リボン買ってどうするんだよ」 「おばあちゃんとコレ作るの」 レースのリボンコーナーの近くにはリボンを使った小物の作り方を書いた無料冊子が置いてある。そこにはピンクのレースリボンを使った髪留めの作り方が載っていた。美鈴の心を射止めたのはどうやらこの可愛らしい髪留めのようだ。 「わぁ、女の子だなぁ…」 「買ってやろっか」 「ほんと!沙希兄ちゃん」 「クリスマスプレゼントな」 美鈴と手を繋いでレジに行く沙希。笑武はその間、迅地の方を見ている事にする。 「笑武兄ちゃんも誰かにプレゼント買いに来てたの?」 「うん、ヴァルトのクリスマス会で交換する用のプレゼントをそろそろ探そうと思って」 「沙希の誕生日プレゼントはもう買った?」 「え?!沙希さんって、今月誕生日なの?」 「笑武兄ちゃん知らなかったのか?沙希の誕生日、クリスマスイブだよ!覚えやすいけど忘れられやすいって言ってたもん」 「クリスマスイブ…そうだったんだ」 (そうだ…沙希さんは今年の誕生日まだ来てないって、最初に聞いてたのに) 初めて会ったときの会話を思い出せば、確かに年末までの残り少ない日数のどこかに誕生日がくる事は推測できた。しかし交友関係が深まっても、それを聞いた事はまだなかったと気づかされる。 「ありがとう沙希兄ちゃん!」 「こんぐらいなら良いって」 会計を終えて戻って来た沙希の肩を笑武はさっそく捕まえた。 「沙希さん、何が欲しい?」 「は…?」 誕生日の話だという主要件が抜け落ちた不可解な質問に沙希は綺麗な顔を怪しむように顰める。 フードコートで子供達にドリンクを飲ませて休憩しながら笑武は改めて沙希に誕生日の事を切り出した。 「迅地君に聞いたんだ…沙希さんの誕生日」 「そっか…俺の誕生日って、いつもクリスマスとセットにされるんだよね」 「だから今年はクリスマスとは別で、ちゃんと沙希さんの誕生日祝わせて」 「別にいいって…クリスマス会のプレゼント交換で1個は誰かのプレゼント回ってくるし」 「それはクリスマスプレゼントだよ」 「んー…おまかせで」 「分かった、リクエストがないなら、俺が選ぶね」 (ちょっと意外だなぁ…沙希さんなら欲しいもの色々あると思ったのに) 「玲司兄ちゃん!」 仕事を終えて来た玲司の姿を見つけて美鈴が位置を知らせるように手を振る。それを見つけた玲司がホッとした表情で歩み寄って来た。 「急に仕事入って悪かった、遅刻者が出てよ…沙希、コイツら見ててくれてありがとな」 「あー…うん」 「違うよ、オレ達が沙希のこと見てたんだ」 「沙希兄ちゃんが迷子になっちゃって大変だったんだよ」 「そうなのか?」 「…ごめん」 2人から目を離してしまった責任を感じてか何も言い返せない沙希に笑武が助け舟を出す。 「俺が偶然居たから2人ともコッチに来ちゃって…だから半分は俺のせいだよ」 「そういや笑武が居るじゃねえか…馴染みすぎてて気付かなかったぜ」 頭をわしゃわしゃと撫でられて擽ったいと笑う笑武。 「お疲れ様、玲司さん」 「ああ、そんなに気にするなよ、コイツら俺でも追いつけねぇ時あるからな」 「美鈴はまだ恥ずかしがって1人で買い物できないけど、オレは出来るんだ!玲司兄ちゃんや沙希が迷子になっても美鈴はオレが見ててやるから大丈夫!」 「迅地君は美鈴ちゃんの頼れるお兄さんなんだね」 「まーね!美鈴は末っ子で、オレの大事な妹だからな!兄ちゃんは下の兄妹を守るものなんだ!」 「…うん、そうだね」 両親の再婚後、学校生活が少し変わった。学矢と兄弟関係になった事が知れ渡ると学矢目当ての女子達に友好的な態度を取られるようになったのだ。それを妬んだのは一部の男子達。聞こえるように嫌味を言われる事も珍しくなくなった。 『笑武…どうした』 日に日に学校から帰ると元気のなくなっている笑武に、親より先に気付いたのは兄である学矢で。笑武は複雑な気持ちになる。 『何でもない』 そう答え続けていたが、それは解決を諦める言葉でしか無い。浴びせられる妬みの言葉。慣れない女子達からの下心を含んだアプローチ。その対応で余計な疲れが蓄積される。 『笑武…最近、元気がないな…何かあったなら俺が聞こうか?』 『本当に何でもないってば!』 疲れと共に少しずつ積もり溜まっていたストレスが、爆発してしまう日もあった。それでも詳しい事は話さなかった笑武だったが、ある日それは呆気なく終わる。 『おい栄生学矢の弟!女紹介しろよ、お兄ちゃんに振られたおこぼれでいいからさ』 『お前ばっかりズルいぞ』 『…俺は兄さんに振られた女の子なんて知らないし、関係ないよ』 いつものようにモテない男子達に絡まれていた笑武が下校しようと校門を出ると、そこには学矢が待ち構えていたのだ。 『お前らか…俺の可愛い弟にウザ絡みしてるのは』 『兄さん?!どうしてうちの学校に…家と逆方向なのに』 『笑武と一緒に帰りたくなったんだよ…ついでにここの女の子達に少し聞き込みをしたら、色々と教えてくれてな』 『…っ』 名門校の制服が目立ったのか学矢はすぐに女子達に囲まれたようだ。そのおかげで、笑武に絡んでいた男子達の下品な態度も簡単に晒される事になる。 『笑武の事…虐めたら許さねぇよ?俺の弟に馴れ馴れしく話しかけるな』 『いっ…いや、俺たちは別に虐めてなんか』 『俺に言いたい事があるなら直接言いに来い!いつでも聞いてやる』 まさか別の学校に通う本人が出てくるとは思わなかったのだろう。学矢の闇色の瞳に映る男子達の滑稽な慌て様。女子達がここぞとばかりに学矢に味方して男子達に「身の程知らず」「ダサい」と総口撃を浴びせると周囲からの注目も集まり、男子達は堪らず赤面して逃げ出した。 『兄さん…』 『俺のせいで絡まれて大変だっただろ…ごめんな?笑武』 『ううん…俺の方こそ、上手く対応出来なくて…ごめんなさい』 『謝らなくていい、笑武は何も悪くない…でも黙って抱え込むのは無しだぞ、お前はどうしても自分の言いたい事を飲み込もうとするからな…これからは嫌な事は俺に吐き出せばいいんだ』 『…うん、ありがとう』 『よしよし、それじゃ…一緒に帰ろうな』 女子達の群がりはその後も暫く続いたが、そちらも順次学矢が対応してくれたおかげで徐々に落ち着いていく。この件以来、学矢は笑武が卒業するまで可能な限り迎えに来てくれたのだった。 (…やり過ぎなくらい、守ってくれてたな) 「笑武ー…目開けたまま寝てる?」 「え!あ、ごめん!考え事!」 沙希の声で我に帰る。兄との思い出に浸っていたとは言えずに適当に誤魔化した。 「美鈴、沙希兄ちゃんにリボン買ってもらったの…クリスマスプレゼント」 「お?良かったな美鈴、ちゃんとお礼言ったか」 「うん」 「プレゼントと言えば…沙希、考えとくって言ってた欲しいもの、そろそろ思いついたか?」 玲司からも誕生日プレゼントの話題を振られて、沙希は溜息を吐く。 「考えんの面倒でさ…って言うか、玲司にはいつも食費とか光熱費とか、あと交通費も浮かせてもらってるから、いいや」 「面倒って…」 「気持ちだけ貰っとく」 「お前が要らないって言うなら、控えるけどよ…」 やはり玲司も笑武と同じ反応だ。沙希からは遠慮している、と言うよりは関心が無いように伝わってくる。どうでもいい事のように。それ以上、食い下がる事は出来なかった。 「えー、オレならゲームソフト買ってもらうのにな」 「沙希兄ちゃん…お菓子買ってもらったら?好きでしょ?」 「あ、それでいい!玲司、お菓子買って」 「子供かよ…だから迅に呼び捨てにされるんだぞ」 「別に呼び捨てでイイし」 「ったく、こいつ食い気だけは遠慮ねぇよな」 玲司が苦笑して笑武に問いかける。笑武はうーん、と唸るしかない。 「……あはっ」 笑った沙希の表情は、どこか寂しそうに見えた。 この季節、毎日が繁忙期なのは夜の繁華街だ。rosierの開店前、チャームを補充しながらボーイが疲れた声で呟く。 「risen(リズン)好調みたいっすね」 名刺を補充していた善がうん、と頷くとソファで踏ん反り返っていた皇が鼻で笑う。 「客引き増やしてるんだろ」 改装が遅れていたライバル店がオープンして、早速霧ノ堀では新規の客の取り合いが勃発していた。改装直後なだけあってライバル店のrisenはどこよりも派手で、外観も綺麗で目立つ。繁忙期なので取る客は余るほどだが、今取った客は閑散期に重要な固定客になっていく。何処の店でも未来の固定客が欲しいのは同じだ。違法ギリギリの客引き合戦があちこちで繰り広げられている。 「それもあるけど、良くない噂も聞くよ」 「引き抜きか」 「ああ、やっぱり皇も聞いてた?」 「色んな店から引き抜いて内情リークさせてるってな…ハッ、何が経験者優遇だ」 「元の店より時給を上乗せして引き抜けば、ホストにかかる人件費は増えても付いてくるお客さんも同時に獲得できるから損にはならない…経験者は即戦力で使えるしね」 「リーク情報で抜けそうなホストに目星付けて勧誘か…おい夕、浮気するなよ」 「俺はしないよ」 「引き抜きもそうっすけど…裏でヤバい事してるって話もあるんで気をつけて下さい」 「あ?」 「流石に皇さんや夕さんに手を出すような事は無いと思いますけど、引き抜きに応じなかったり、トラブル起こしたりしたホストが裏でリズンの回し者にボコられる被害が出てるって…」 「ライバル店のホスト狩りまでやってんのか…自分とこの売り上げだけ気にしてればいいもんを、他のとこ蹴落とすのも忘れねぇとはな」 「まぁ、そっちはあくまで噂の噂の噂くらいっすけど」 「だけど、火のないところに煙は立たない…皇は喧嘩っ早いから気をつけて」 「くだらねぇ、相手にするだけムダだ」 「それなら良いけど」 「この辺も競合店増えて来て賑やかにはなって来たっすけど、生き残りかけてバトルロワイヤル状態っすからね…ロジエも古参だからってうかうかしてられないっす」 「ま…競い合いは店に限った事でも無いしな」 「やだな、今月のランキングが競るのは仕方ないよ」 「まだ前半戦だ、後半で圧倒的にぶち抜いてやるから楽しみにしとけよ」 更衣室には月ごとの指名数が場内指名と指名、つまり新規指名と2回目以降の指名で色分けされ、売り上げが棒グラフ式のランキングで張り出されている。現段階ではNo.1が夕と皇でほぼ並んでいる状況だ。 「そう言えばリズンのNo.1、皇さんと違って可愛いっすよ…パネル見ました?」 「いや、まだ見てねぇな」 「うちの皇も可愛いよ、私服のパーカーに猫耳付いてるし」 「っ、ライオンだ!バカやろう」 「ははは!フードに鬣付いてるからライオンっすよねー」 (ライオンでも可愛いんだけどね) (ライオンでも可愛いんすけどねー) 「?」 「あ、そうそう…前にうちに居たホストも何人か流れ着いてるみたいなんで…繁忙期過ぎたら視察入れときたいって店長言ってましたよ」 「別におかしくねぇ話だな…うちに居たホストなら特に時給も弾むだろうよ」 「さ、そろそろミーティングの時間だよ…今日も頑張ろうね」 開店時間が同じrisen。新築特有の匂いがする店内。rosierが黒い壁に青い雷鳴の電飾をしているのに対してrisenは白い壁にカラフルな蝶が舞っている装飾だ。照明を抑え薄暗いシックなrosierとは対象的に眩しいほど明るいシャンデリアがいくつも吊るされ光を放つ。そしてその光に白い床が反射してキラキラと光って見えるのだ。 「おっはよー」 「「お早うございます、天空(そら)さん」」 No.1の出勤に店内に居た全員が挨拶を返す。名前と同じ空色のショートボブを緩くふわりとセットした小柄な青年。声も少年のように高く可愛い。 作られた困り眉の下でぱっちりとした薄黄色の瞳があざとく瞬く。目薬をさしているように潤み、黒目の大きなその目は自分の可愛さを分かっているように入口の近くの鏡を見つめている。ふっくらとした涙袋の効果もあって泣きそうな表情にも見える為、無意識に庇護欲を誘われてしまう。高い鼻はやや不自然な程整って小さめの口元には血色の良い厚みの有る唇。白いホストスーツにも襟や袖に青いフリルが付いていたり、空色のシャツもドレスシャツだったりと垣間見える可愛さアピール。 「ブログ用の写真撮るぅー」 出勤して早々の自撮りタイムに背景の邪魔にならないように他のホスト達が気を遣う。risenの公式サイトにはホスト達のプロフィールだけでなくブログも載っているのだ。ブログには公式的なランキングこそ無いが読書数が出る為、気にしているホストは多い。現段階で天空のブログの読書数は2位。1位は改装期間中に入った新人だ。 「お早うございます…天空さん」 「あっ!月夜(ゆえ)おっはよー」 月夜。ホストとしての人気はそこそこのホストだがブログの方では天空を抑えて1位をキープし続ける彼は、天空の前に来ると跪く。彼のブログが人気なのは、特殊な理由がある。 「どうですか…」 「今回は小鼻の縮小だったよね、クリスマス前にダウンタイム抜けて良かったね!仕上がりもいい感じだよ」 月夜は自らの整形とその過程をブログに載せているのだ。最初は印象の薄かった青年の姿形が変わっていく様に女性達はもちろん、ホスト達の注目度も高く、あっという間に読者数が増えた。 「ありがとうございます」 元の髪色を脱色して白に近くなった金髪のストレート。長い髪は後ろで束ねて前髪は横に流している。 最初に手を加えた目元は外国人のように深い人工的な二重。人形のような赤のカラーコンタクトを入れている。鼻筋は元々高かったが少し広めだった小鼻は今回の処置で縮小された。薄い唇は年明けには少し厚みを得る予定。彼の顔はまだ開拓途中なのだ。 「僕がプロデュースしてるんだから、大丈夫だよ」 月夜の整形費は出世払いの約束の元、全て天空が出している。そして整形内容も全て天空の指示だ。 それは公にされている事実。他のホスト達も知る所である。月夜は天空の玩具、陰ではそう囁かれる事もあるほど月夜は天空に逆らわない。 「はい…」 「でーもさ、話術はメスじゃ治らないからね!あと、お酒もう少し強くなって!ゆっくりでいいからさ…ね?」 「すみません…努力します」 「オッケー…さぁ!みんなぁー!今日もよろしくねぇ!」 ホスト達にも可愛く振る舞う天空。ミーティングの為に集まり始めた大半のホスト達と違い、店のレンタルスーツに身を包む月夜は鏡を見ながら、静かに自分の鼻頭に触れる。 「……俺は、どんな姿になっても必ずこの世界で這い上がって…そして、ロジエに復讐する」 呟かれた独り言は、内にある深い怒りと憎しみを吐き出したもの。月夜の赤い瞳はrosieのある方角を睨み付けていた。 その夜。 テーブルの上に置かれたクリスマスカラーのリボンを手に取ってぼんやりと眺めている笑武。 「買っちゃった…」 玲司達と別れてから戻った手芸屋で、一度は戻したリボンを購入したのだ。眺めている内に学矢とのクリスマスデートが思い出されて、使う予定もないのに気づいたら会計に立っていた。 (沙希さんの誕生日プレゼント、迷って買えなかったなぁ…俺からも食べ物にする?でも、俺はお任せって言われたし…沙希さん、本当に玲司さんからプレゼント貰いたくないのかな…だって、きっと…) 笑武は部屋の中を見回した。塗りたてベアのコラボカフェで買ってもらったペンケースや、ゲームセンターで獲得したぬいぐるみ、自信のないテストの時に御守り代わりにと貰った消しゴムまでもが学矢から贈られたというだけで、それは宝物に変わり。目に映るたびにその時の幸せな記憶を気持ちと共に思い出させてくれる。見ているだけで、逢いたくなってしまう。 「…思い、出す?」 ハッと手にしていたリボンを見て目を見開く笑武。 (そうだよ…だから玲司さんからは要らないんだ…沙希さんは、玲司さんを好きにならないようにしてるんだ…プレゼントを見る度に、今の俺みたいに…思い出して、逢いたくなったりしたら…それを避けたくて断ったんだ…食べ物は残らないから、お菓子でいいって) 笑武は寂しそうに笑った沙希を思い出して、リボンをテーブルに置いた。 「……俺、決めた!沙希さんへのプレゼント!」

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