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第24話 3-D
年末年始はlibertàも休みに入る。勇大は店のメンテナンスの為に顔を出しているが営業はしていない。昨夜は仕事納め。閉店後にオーナー夫妻を含めて従業員だけで忘年会を行なった。並んだのはlibertàらしく食材を無駄にしないよう余り物で作った料理だ。少し残っていた忘年会の片付けを済ませて、勇大は裏口から外へ出た。先日降った雪がまだ薄く残っている。
「ん?」
「あらぁ!勇大君、お片付け?」
「律紀…随分と大荷物だな」
「そう、お鍋作ろうと思って!こっちは実家への手土産ね」
食品がたっぷり入ったマイバッグと帰省の時に持っていく菓子折りで両手が塞がっている律紀。勇大は重そうなマイバッグの方に手を差し出した。
「どうせ行き先は同じだ」
「あん、助かるわぁ!ありがとう」
ちゅ、と唇を突き出してキスの真似をする律紀だったが完全にスルーされる。
「1人分にしては多くないか」
「うふふ、買いすぎちゃったのよぅ…勇大君一緒にどう?」
「俺と?別に構わんが…」
「じゃあ決まりね、今夜はリッキーお手製の豆乳鍋よ!勇大君はいつもみんなに美味しい料理を作ってるんだもの、たまには人に作ってもらって食べる方にも回らなきゃ…研究とか抜きでね!」
話している間にHeimWaldに着く。3階まで上がると律紀は思い付いたように3-B号室のチャイムを鳴らした。
「ああ、花結も鍋に誘うのか」
「起きてるかしら?お仕事はもうお休みに入ったって聞いたんだけど」
2回ほど鳴らした所でドアが開く。
「あ…リッキー氏…」
「良かった!花結ちゃん起きてたのね、今夜3階組でお鍋パーティーしない?美味しい豆乳鍋作るわよ!」
「ふふ…30時間耐久配信……リアルタイム視聴…成功です…これで、悔いなく…寝落ちできま…す」
「え?」
返事の意味が分からない。目が点の律紀。
「おい、どうした」
「きゃー!」
倒れ込んできた花結を抱き止めて、心配そうに様子を窺う律紀と勇大は花結が眠っているだけだと分かると顔を見合わせて安堵した。勇大の方は半ば呆れ顔だ。
「寝るなら寝床へ行け、起きろ」
「電池切れちゃったみたい…まったく起きないわ」
「…休みに入ったと思ったら、何をしているんだ?こいつは」
「いいわ、花結ちゃんはキートレーを靴箱の上に置いてるから戸締まりしてウチに誘拐しちゃう」
「……」
「何よ!その目は!何もしないわよぅ!」
「何も言ってないだろう…俺は部屋に居る、適当に呼んでくれ」
「楽しみにしててね」
「…ああ」
律紀と花結が無事に3-A号室に入ったのを確認して3-C号室へと向かう勇大。すると、空室とされている3-D号室のドアがゆっくりと開く。
「……」
「!?……珍しい、ですね…いつから此方に?」
勇大が敬語を使う相手。それは以前、笑武が幽霊と見間違えた黒髪の人物だった。笑武が目撃した時は白い服に肩まで伸びた長い黒髪。前髪も目が隠れる位置まで長く毛先は人形のようにパツンと切り揃えられているという、いかにも和製幽霊のような姿だったが今は伸びていた髪は短くショートにカットされて太めの金メッシュまで入っている。短い眉の下、切長の目がアーチを描いて笑った。明るい紫の瞳。口角が高く常に笑っているように見える口元。
「はぁー…よお寝た!なんや!梶本 っさんやん!相変わらずデッカいな、壁か思たわ」
そして特徴的な訛りのある青年。服装も白一色のものから真逆のド派手なストリートアートがプリントされたジャケットに変わっている。アンダーは黒の無地だ。細めのジーンズといい和製幽霊の面影はどこにも無い。3-D号室から出ると思い切り伸びをしている。
「年越しは此処で、ですか…」
「ちゃうよ、仮眠しに寄っただけやし…リッキーの雑巾絞ったみたいな悲鳴が聴こえた気がして出てきてんけど…何やったん?」
「あ、ああ…さっきのは、問題ないです」
「ほんま何回言うても距離感縮まらへんな、いくら俺がオーナーの息子やからって遠慮せんでもええよ?俺も言うたら梶本っさんと同じ入居者やねんから」
「知っているのは俺と律紀くらいです…他の入居者には、そもそも3-Dは空室だと思われている」
「そら滅多に寄らへんし、何も置いてないし、空室同然やろ?管理人さんにも適当に言うといて!って伝えてあるしな!あっはっは!たまに居っても全然バレへん…俺、そんな影薄いか?」
「…律紀が面白がって冗談を言ってますよ、契約者は幽霊だと… ヴァルトの印象を悪くするような噂を流すなと叱っておいたんですが…」
「あっはー!別にええよ、リッキーはほんまにオモロい奴やな、ほんなら髪切らん方が良かったかもしれんな?億劫やし自分で切ってたらそれこそ幽霊みたいにパッツーンなって、しゃーなし散髪行って来たんやけど」
「…はぁ」
「あ、けど賃貸に幽霊は笑えへんか?」
「普通は」
「まあまあ、そん時は俺が出ればええだけの話や…リッキーは此処のムードメーカーなんやから、あんま叱らんといて」
「相変わらず律紀に甘いですね」
「そらもう、俺オモロい奴がいっちゃん好きやし!」
「はぁ…」
「ほんまは、管理人さんから気になる話聞いて様子見に来たんやけど、大丈夫そうやな…梶本っさんやリッキーが居るし、要らん心配やったわ」
「例の不審者ですか?」
「んー…まあ、な?此処は美人が多すぎるな?結局、肝心な時に俺居らんかったし」
「美人でも男揃いです、寄せ集まれば大抵は何とかなりますよ…俺としては…住人同士で揉めるのが、1番厄介だ」
「ま、それは間違いないな、ほな、これからも頼むで梶本っさん!」
「…もう、戻るんですか」
「オーナーの息子が居るって知ったら、みんな気遣うやろ?せやから俺は、基本居らん方がええんや」
「そんな事は…」
「それに、これでも忙しいしな…此処はほんまに親父と喧嘩した時の逃げ込み場や」
「そうですか…」
ひらりと手を振って、青年は戸締まりだけ済ませて部屋を離れた。駐輪場で自転車のメンテナンスをしていた笑武が、見知らぬ青年とすれ違って振り向く。
「え…あのっ?」
「……あ、あんたは」
「すみません!どこかで、会ったこと…ある気がして」
会ったと言うよりは幽霊と見間違えた、だ。
「気のせいやと思うで?」
「ですよね!すみません…あ、誰かのお友達…ですか?」
「せやで、リッキーの元カレ…今はお友達や」
「っええ?!」
「あっはっは!君、ええリアクションするな…因みに前半は嘘やで?ほな、さいなら」
「っ、え…あ…あの、俺!栄生笑武っていいます、律紀さんの友達なら、また会うかもしれないし」
「えー…?ああ、自己紹介?……どうしよかな」
「?」
「サンディー」
「…サンディーさん?」
「そ、みんな俺の事サンディーって呼んでるわ…あんたも、そう呼んでくれてええよ」
「分かりました、サンディーさん!」
「ふっふっふ…ほな」
本名を名乗ればオーナーの身内だと気づかれる可能性がある。その為、青年は本名を名乗らなかった。
代わりに置かれたニックネームの意味が3-D(サンディー)だという事に笑武が気付く訳もなく。
(律紀さんもリッキーって芸名使ってるし、遠方の大道芸仲間さんかな?)
きっと年末年始の休みを利用して会いに来ていたのだろう、と微笑ましい気持ちで見送ったのだった。
Biz Festのフードコート。残業中の玲司を待つ為に朔未と沙希は2人でドリンクを飲んでいた。
「珍しいですよね、玲司くん抜きで沙希くんとお茶するのは」
「ん、まあ…そうかも」
「本当に良いんですか?玲司くんのお休み中、俺までそちらの店長さんに送迎してもらうなんて」
「ああ、うん…玲司が店長に頼んでくれたっぽい、店長も喜んでたし」
「え?」
「ビズで話題の美人ふたりと一緒に通勤なんて、店長仲間に妬かれちまうかもな!…ってさ」
「ふふっ、それはどうも」
「年末年始は全店営業時間一緒だからちょうどイイじゃんね」
「そうですね、玲司くんは今日が仕事納めだからきっと色々片付けてるんですよ」
「あいつ、ホント疲れ知らずだよな…経験積んで将来的には独立するんだろうけどさ」
「そう言えば…実家の近くでペットサロンを開きたいって聞いたことがありますよ」
「え!…そうなんだ」
「はい、まだ沙希くんがビズで働く前は俺と玲司くん2人で通勤していたので色々話してたんです…実家の方はペットサロンは少ないし、土地は余ってるからって…確か、お祖父様がすごく土地持ちの方なんですよね?幾つかある農業用地は管理委託や貸し出しもしてるとか」
「…大家族って事くらいしか知らないけど、確かに実家から帰ると米とか野菜とかめっちゃ貰ってくる…で、よく3Cで調理されて戻って来る」
「ふふっ、いつもお裾分け助かります」
「そっか…いつかは、ヴァルト出てくんだよな…みんな」
「寿退去の競争でしょうか?」
「はぁ?競うもんじゃないし!」
「冗談ですよ」
くすくすと笑う朔未。
「朔未は?正月休みどっか行くの?」
「実家に帰るだけです…ちょっと長めに取ってるので、お正月明けまで会えないですね」
「そっか、最近よく体調崩してたからゆっくりして来いよな」
父親の入院を隠している朔未は先日急に休んだ理由を自分の体調不良と偽っていた。周囲にはまだ病み上がりだと思われている。
「そうですね、ありがとうございます」
「俺は笑武と年越し!泊めてもらう約束してんの」
「お泊まり会ですか、楽しそうですね」
「あはっ、一緒に年越しそば作る予定」
楽しそうに笑った沙希が正面に座る朔未の後ろの方へ視線をやった瞬間、その笑みを消した。
フードコート前の通路を一組のカップルが通過したのだ。仲良さそうに並んで歩く男女。男性の方は見知った人物で、よりにもよって目の前に居る朔未の元カレである蓮牙だ。驚きのあまり女性の方は印象に残らなかった。
「沙希くん?」
明らかに動揺を見せた沙希の視線の先が気になって背後を振り返る朔未。
「あ…み、見るなって!」
慌てる沙希とは対照的に朔未は女性を連れて歩く蓮牙を見つけても冷静だった。口元で微かに笑って向き直る。
「良かった…」
「え…」
「ふふっ、どうして沙希くんが慌ててるんですか?」
「だって…あれ、どう見ても」
「問題ないでしょう?彼はフリーなんですから…俺も友達が幸せなら、嬉しいですよ」
「…うん…朔未がそう思ってるならイイけど」
「なんだか気を遣っていただいて、ありがとうございます」
「う…」
ひとりで慌てている自分が恥ずかしくなり沙希はドリンクを飲んで誤魔化した。
そんな2人の様子を少し離れた席から広げた雑誌で顔を隠してチラチラと覗き見ている白石。
(よく聞こえないけれど2人は何を話しているのかしら…穂高君、彼に『他の男を見るな!』って言われているようだったわ…羨ましい)
相変わらず白石の視点では沙希にだけ掛かるキラキラのフィルター。彼女の勘違いと片想いも来年に持ち越しそうだ。
その頃、霧ノ堀ではクリスマスから年末にかけての大繁忙期を駆けるrosierに経営を揺るがす事件が起きていた。
「よ…陽太!!」
裏口から助けを求めて取り巻きのホスト数人と転がり込んで来た陽太を支える店長。可愛い顔とあざといまでに人懐っこい性格でrosierの中でも高い年齢層の客に可愛がられ安定の人気No.3をキープする陽太。しかし今、その可愛い顔は全体的に腫れ上がり、目も当てられない。
「騒がしいな、なんだ…?」
「…裏口の方だね」
開店前の薄暗い店内。テーブルの準備をしていたボーイと出勤したばかりの皇、そして善が店長の悲鳴を聞いて駆けつけた。
「え?!陽太さん…っすよね?」
「病院だ、早く!」
「あ、はい…車回して来ます」
店長に急かされてボーイが裏口から飛び出して駐車場に走って行く。
「何があった」
顔を震える両手で覆ってしゃがみ込み、とても話せる状態では無い陽太の代わりに一緒に居た取り巻きのホスト達に答えを求める皇。
「ホスト狩り…だと思うんですけど…」
「ホスト狩りだ?お前らいつも団子になって歩いてるのに狙われたのか」
「いや…やっぱり違うかも」
「ああ?」
ハッキリしない回答に短気な皇は苛ついた声をあげた。
「皇、落ち着いて…どうして普通のホスト狩りじゃないと思ったの?」
喧嘩になりそうな空気にすかさず善が中和に入る。
「それはその…囲まれる前に、聞かれたんで…『ロジエのホストか?』って」
「わざとうちのホストを狙ったって事なのか?!」
誰よりも驚いた声をあげたのは店長だ。自分の店の従業員が意図的に狙われたとあってはそれも当然。しかも陽太は人気No.3、店外のパネルにも出ている看板ホストの1人なのだ。
「あと…俺ら誰も金品は盗られなかったんで」
「なるほどな、ただボコられただけか…ハッ、いつもヘコヘコしてるくせにオマエらは早々に陽太を見捨てて逃げたみたいだな、綺麗なツラしやがって」
「そ、それは…俺たち陽太さんを守ろうとしたんですけど…アイツら執拗に顔狙って来たし…別々に逃げるしかなくて」
「どうだかな」
「皇、この子達を責めるのは違うと思うよ…それよりアイツらって、どんな人達だった?」
「どんなって…ボコって来たのは普通にチンピラって感じでした…あ、でも1人だけマスクした男がいて、そいつだけなんか雰囲気違いましたね…見てるだけで手も出して来なかったし」
「そいつがリーダーか?」
「それは分かりません…深めに帽子被ってて…あ、月の形したピアスしてました…よく見てる余裕なかったんで他は覚えてないです」
「帽子にマスクに、月のピアス?そんなもん、いつも付けてるとは限らねぇだろ」
「すみません…」
「もういいよ、君たちも一応、手当てしようか…更衣室に救急箱があるから」
軽く頭を下げて更衣室に上がるためのエレベーターに向かう陽太の取り巻きホスト達。ちょうどボーイの車も着いた為、店長が陽太を車まで連れて行った。
「あの怪我じゃ、陽太は暫く休むしかねぇ…このクソ忙しい時にNo.3持っていかれたのは痛手だな」
自身を落ち着かせるように煙草を咥える皇。善は無言で頷いた。
「はぁ~…揉め事はやめてくれよ、なんでウチなんだよ」
戻って来た店長がソファに座って頭を抱えた。陽太の心配というよりは店の心配をしているようだ。
ホスト狩りに限らず喧嘩や恐喝などが頻発し身の危険性が高い夜の霧ノ堀。普段ならばターゲットにされたのは単なる不運で済まされてしまう。しかし相手がrosierの名前を確認して、手を出して来たのなら話は別だ。不運ではなく、故意に狙われた事になる。
「……」
煙草を持つ皇の指が微かに震えているのを見て善は灰が床に振る前に灰皿を手渡す。
「大丈夫、皇が襲われたら俺が守るよ」
「はあ?!気色悪ィ!何が守るだ、お前はNo.2だろ!人の心配より自分の身の心配しとけ」
「そう言えばそうだったね、気をつけるよ」
この日のrosierは陽太が急に不在になった事で何も知らずに来店した指名客達の対応に追われ、回しも混乱気味だった。指名されていないのに同じホストが同じ客に2回着く初歩的なミスが生じたり、ハンドサインを見間違えてオーダーミスをしたり、明らかにいつもより不手際が多い。中には怒り出す客も出てしまい、その度に店長が頭を下げて回った。
「陽太君がいないなら、他に行くわ…ロジエでは陽太君以外のホストとは飲みたく無いの」
rosierはあくまで陽太と飲むための店。そうして離れた客にすぐさま声をかけて引き寄せるのがrisenだ。そんな光景をrosierのホスト達は何度か見かけた。そして影で囁く。
「なあ、陽太さんやったのって…もしかして」
「やめとけよ、証拠もないのに」
噂の噂の噂。
この大繁忙期中で間違いなく一番、疲れる1日がなんとか終わろうという朝方。最後の客を見送り、店内が空になった途端にまだ人の温もりが残るソファに倒れ込む皇。珍しく酔い潰れてしまったようだ。
「皇さん、今日よくラストまでもったっすね」
「うん、待機中に裏で吐いてたのに…陽太の分まで頑張ろうとしたのかもね」
「夕さんは平気っすか」
「こう見えても疲れてるよ、早く帰って寝たいかな」
「じゃあ先に送りの車出してきます」
「よろしく…皇、ほら起きて…帰る準備しよう」
ボーイが車を出しに行っている間に帰り支度を済ませておくべきなのだが、皇は起き上がる気配がない。いつまでも閉店後の店に置いて行く訳にも行かないので仕方なく善が更衣室まで連れて行く事にした。
「……ゅ、う」
「うん…動けるようになるまで時間かかりそうだから抱っこして運んでいい?」
「……したら許さねぇ」
「口だけは動くみたいだね…じゃあ、肩貸して」
店舗の入口横にあるエレベーター。1階から上がる為には外に出なければならない。力の抜けた成人男性を抱えての移動は一苦労だ。
「わ、大丈夫ー?手伝う?」
エレベーターまでの僅かな距離。出てくるのを待っていたかのように声を掛けてきた人物は初めて会うのに知っている顔だった。
「リズンの子だね…確か名前は、天空」
「知っててくれたの?嬉しいなっ…あ、もちろん僕も知ってるよ!ロジエの夕さん!潰れてるのはNo.1の皇さん!でしょ?」
「そっちも今日はあがり?」
「うん!今、送り待ちしてたんだー…お互い、今日も忙しかったね!」
「そうだね、お疲れ様」
天空の耳に光るピアス。髪の隙間から見えた形は、蝶だった。
「ん?このピアス気になる?リズンの店内は蝶々の装飾が多いから合わせてみたんだ!」
(月じゃない…か)
「似合ってると思って」
「そうかなっ、夕さんに褒めてもらえるなんて、着けて来て良かったー」
天空は皇を支えている善の代わりにエレベーターのボタンを押す。
「ありがとう」
「んーん、大変だね!同じNo.1でも、僕は潰れるほど飲んだ事ないもん」
同じNo.1という言葉に反応して薄く目を開いた皇と天空の視線がぶつかる。2人の間でパチ、と小さく見えない火花が散った。
「ほら皇…エレベーター来たから」
エレベーターに乗り込む2人に両手でバイバイと手を振る天空。
「まったねー」
エレベーターの中で皇は面白くなさそうに呟いた。
「クソ…こんな無様な所、よりによってリズンのNo.1に」
「皇は本当に負けず嫌いだね、あっちは気にしてないよ…それに同じNo.1でも皇と彼はタイプが違うし、指名の取り合いにはならないんじゃないかな」
「俺とは被ってなくても…あの鬱陶しい程の可愛さ売りはうちの陽太と丸かぶりだろ」
「…考えすぎだよ」
「…ッ…吐き気がしてきた」
「更衣室まで我慢して」
エレベーターを見送ってrosierの店外パネルを見つめる天空。陽太の前で愛らしく微笑む。
「僕のほうが可愛いかもぉー」
極夜に咲く薔薇と白夜に舞う蝶。
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