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第3話

パソコンに残っている未処理の書類作成フォルダを開き、手早く数字を打ち込み20分ほどで完成させる。デスクに置いていたラテも飲みやすい温度になっていたので飲み込んで甘さを堪能した。仕事はもぐら叩きのように次から次へと増えるが、取り敢えず優先順位の高いものから叩いていけば問題はない。 仕事の要件があらかた片付いたところで自分の端末を操作するとメールがいくつか届いていた。全てに目を通してから返事を送った頃退社時刻となった。パソコンの電源を落としている間にメールの件数が増えている。その文章を読んで端末を鞄にしまいこみ、エレベーターに乗りこんだ。 数秒で一階のロビーに辿り着き、そのまま外へ歩を進める。 暑くも寒くもない爽やかな風が吹く空気は日没後の橙色を仄かにはらんでいた。 一定の速度を保って向かったのは駅前にあるファーストフード店。ドアを開けると入店音と店員の声がかかる。店内を見回すと目当ての人物は一番奥の目立たないところにいた。まっすぐに向かい正面に座る。 「おつかれ~」 「このチェーン店を指定するとはお前らしい」 「学生時代一緒によく来たからね」 「いつものでいいか?」 「いいよ」 短い会話だけで彼は財布を手にして、レジカウンターへ向かった。 テーブルに肘をつき、その後ろ姿をぼんやりと眺める。 部活帰りらしい学生の集団に交じっているのはなんだか妙な感じだなと思うし、自分たちが大人になった証でもあった。あの頃と同じメニューを頼む自分はもう子供ではないのだ。それなのに決まって同じものばかり食べるのはなぜなのだろう。 ややあって運ばれてきた目の前の食べ物を見てそんなことを思った。 温めなおされたふわふわのエビカツバーガーにチキンナゲットとポテト、それからコーラにホットアップルパイ。彼の前にもほとんど同じものがあるが、デザートはなく、ドリンクはホットコーヒー。 「お前モテてるんだって? しかも仕事まで出来るなら上の部署で役職就けるよ」 「どっちも望んでない。本当にやりたいことだけ保存したままだ」 「思い切ってやっちゃえばいいのに」 相変わらずしんなりとしてしまったポテトに興味はないのか、コーヒーを少しずつ飲んでいる彼の口元にアップルパイを差し出す。一瞬苦々しそうに見ながらも一口齧ってくれる。ああ、本当に変わらない。好きではない。そして、嫌いでもない。提供してくれるから食べる。そんな感覚なのだろう。 全て食べ終えてコーラも飲み干した。手を拭いたウェットティッシュを畳みながら彼をまた苗字で呼んでやろうかと思ったが、そんなのはオフィスでいくらでも取り繕えるので止めた。代わりに気になっていたことを切り出す。 「四十万さんに何か言ったろ?」 「見かけるたびにお前の傍にいるから気になっただけだ」 「彼女綺麗だからね、わかるよ」 「奏」 「俺はお前の友達だよ。昔も、今でもね」 「……ああ、そうだな、俺もそう思ってる」

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