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第8話
どこまでも静かで波風のない穏やかな応答。
もしかしたら俺が求めているのは、変わりのない愛情なのかもしれないが、それを多数に求めすぎて本物がどれなのかわからなくてどれも信じられなかった。
愛してくれているのはこの身であって、利益だけが一致している関係のものだと思い込んでいる。
物体のスペックを愛しているのか、存在理由を求めているのかなど区別するのはとても難しい。
愛玩具になって仕事をしてセックスをする。
その繰り返しの慣れ切った日を過ごしていたところに、相談を受けていた彼女からメールが届いた。
悩みの種だった上司が左遷になり、今回のこと一切を認めた上で他言しないことも確約してくれたとのこと。
彼女の被害届はきちんと受理されたのだろうか。どちらにしても良い結果になって何よりだ。
操作していた端末を柔く取り上げられて促すように髪を撫でられたので、やたらと大きなデスクの下に潜ったまま椅子にかける相手の性器を咥える行為を再開した。
定時は過ぎ、残業として扱われる時間に残るのは上役くらいで、フロアの一部にだけ照明を点けた中、書類にペンを走らせては押印する音と、かすかに水気と空気を含んだ音だけが聞こえている。
「跨って挿れなさい」
「誰もいませんよね?」
「警備員が巡回するまであと30分はある」
細かいことまで指示されていないので、デスクのほうを向いてしゃがみ込んでいた体を伸ばした。関節が少しだけ痛い。薄暗いオフィスに確かに他の人間はいなかった。
浅く息を吸い、自分でほぐしていたアナルとそそり立つペニスを触れ合わせると、胸の奥が期待で満たされ始めた。
腰を少しずつ落として自重のまま飲み込んでいく快感に口がだらしなく開く。
「とろけているな。昼間も使っただろう?」
「っはあぁあ……、んっ、もっと奥まできてぇ」
「……っ、私が結婚していなかったら家に連れて帰りたいところだ」
「あ˝ァっ、ま、ッ……!」
繋がったままいきなり腰を支えられて座っていた相手の脚が立ち上がったので、慌てて目の前のデスクに手をついた。
容赦なくガツガツと腰を叩きつけられ肉がぶつかり合う音が生々しくてたまらない。
このままではイってしまう。快楽に弱いことだけは鍛えようがないので助長していく一方だ。
「ぃあッ、あ、ぁああ!」
飛びそうになる痛みが尿道に走り、背がしなる。
指より細いがしっかりとした硬さのある棒が挿し込まれたのだろう。
今にも吐き出そうとしていた精液は行き場をなくして体の中で留まるが、与えられる気持ち良さからは逃げられずに体がビクビクと痙攣した。
反射でアナルが締まるのもどうしようもない。
ぐたりと脱力した体を机に投げ出す。自分のペニスに突き刺さるものにおそるおそる触れてみると、ボールペンのようだった。
アナルからペニスが抜かれ、自身の硬さも少しずつ萎えていくので自分の手で抜き取った。てらりと濡れたそれを舐めてデスクに置く。
「痛いのは嫌いなんですけど」
「スキンをつけ忘れている君も悪い。プライベートな手当てを出すから許してくれ」
「はいはい、次から気をつけます。スマホ返してください。トイレで搔き出してから帰ります。お疲れさまでした」
身だしなみを手早くととのえて言葉を言い残す。
最初のほうに独り言じみた願望を言っていた気がしたが、現状以上を求めてこないので正しい在り方にさっぱりと別れられる。そこに愛情というものがないから淡白でいられるのだ。
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