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第15話
『一真、そろそろ甲斐さんは仕上がってないのか。もう二ヶ月になるが、オマエにしては遅いな』
佐倉からの電話に、いつもの倍の期間調教していることに串崎は気がついた。店に置いている奴隷とは違い、一時預かりなのでいつもならば一ヶ月もあれば、オーナーの好みどおりに仕上げられる。
そろそろいいのかもしれないけど。まだ彼を手放したくないだなんて、ね。
アタシらしくないことだわ。
「ひどいひとだわ。あんなに厄介なヒトを押し付けといて。アタシは猛獣使いじゃないのよ」
『似たようなもんだろ。まあ三ヶ月は長すぎるから、そろそろ仕上げて返してくれないか』
「わかったわ……もう少し、待って」
携帯を切って工藤を監禁している部屋に向かうと、いつものようにそのベッドサイドへ座る。
そして、ゆっくりと工藤の鍛えられた体を検分するかのように撫でて肌の様子を確認する。
「なあ……最近は手袋しねえんだな」
「こっちのほうがキモチいいでしょう」
直に触れたほうが、工藤の感度があがると分かってからは手袋をするのをやめたが、それだけじゃない感情も串崎には生まれていた。
なめし皮のように堅くしっかりとした身体に直接触れていたいという、欲望もあったのだ。
「さっき、トラさんからそろそろ貴方を返せって言われたわ。組長に引き出せってことだけど」
「……組長なあ。まあ他への見せしめだろうからな。別に、もういつでもいいんだけどよ。返り討ちとかにする気力はねえよ」
本当にどうでもよさそうに言う工藤は、もう腹は括っているということなのだろう。
本来ならば、これ以上の調教は彼には必要はない。
串崎にもそれはわかっていた。この拘束を解いたとしても、工藤はきっと串崎に対しては、暴力を向けないだろう。
「そうね。組長に銃を向けたらどうなるかってことを周りにしめさないとでしょう」
その言葉を聞いた瞬間に、工藤は目を見開き驚いた表情で串崎を見返す。
組員ならまだしも、串崎が自分が仕出かしたことを知るはずがないのである。
組の内情を話すだなんて非常に危険なことで、内容はよもやの反逆事件である。どこから情報が漏れないとも限らない。
「ソレ、虎信に聞いたのか……。アンタは、アイツに余程信頼されてるんだな」
この男の情報源はひとつしかない。しかも、そういう話はめったに外ではしないと定評がある男だ。
「信頼してないのに、貴方を預けないでしょう。アタシなら貴方を他の組に売りつける事だって簡単にできるのだから」
串崎は簡単に情報の出所を認めて、そんなことはしないけどねと続けた。
「そうだな。アンタも憎からず虎信を想っているようだしなあ。まあ、奴は気付いてねえだろうけど」
今日はよほど機嫌がいいのか、工藤はいつもより酷く饒舌である。
「意外と鋭いのね。甲斐も脳みそまで筋肉な虎さんと同じ人種だと思っていたけど」
「惚れたはれたには、ちいっとは気付ける」
虎公とは一緒にするなと言葉を続けて、工藤はぎゅうっと抱きついてきた串崎に、体を預けるようにもたれかかった。
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