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老婆。
この屋敷内をすべて見たわけではないが、けっして老婆が住むようには思えず、その上、見たこともない場所にいるということに困惑を隠しきれない。
それになぜだろう。この老婆と対峙していると太い針金を差し込まれているかのように背筋が伸びきり、心臓が早鐘を打つ。
見知らぬ場所と会ったことのない老婆を目の前にして、ベイジルは今、極度の緊張状態になっていた。
「あなたはいったい?」
口内に溜まりはじめる唾を飲み込み喉の奥に押しやると、やっとのことで口を開く。ベイジルは老婆に尋ねた。
「おまえさんには悪いがね、私の坊やがお前さんを煩わしく思っておってな、その命、頂くことになっておる」
すると老婆はベイジルが尋ねた内容とは違うことを静かに話しはじめた。
ロシュと同じ真紅の目が真っ直ぐこちらを射貫いている。彼女の眼差しはベイジルの全てを見透かしてしまうほどの強固なものだった。
(僕を殺すだって?)
告げた老婆の声は嗄(しわが)れてはいるが抑揚はなく、はっきりとした口調だ。表情は怒気を含んでいるわけでも微笑を浮かべているわけでもない。無表情だ。
ベイジルの聞き間違いでなければ、彼女はたしかに自分の命を奪うとそう言った。それなのに彼女は杖があってどうにか立っている状態で自分を殺すと言う。この老婆に見覚えはない。今、出会ったばかりの初対面である。
果たして自分はいったいいつの間にこの老婆から恨みを買ったのだろうか。
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