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張り詰めた緊張の糸。

「それはどういう?」  ベイジルはますます意味が判らず、老婆に尋ねる。しかしそれもそこまでだった。ベイジルはふいに自分の名を呼ばれた気がして振り返れば、つい先ほどベイジルが通ってきた巨大な両手扉には漆黒のスーツを身に着けた、美しいロマの彼が立っていたからだ。  しかし彼はいったいどうしたことか、普段ならば眉根ひとつすら動かさないのに対し、今は額からこめかみに向かって汗を流し、肩で呼吸している。見るからに疲労していた。 「……ロシュ」  やっと知っている人に会えた。ベイジルは彼の姿を見て一度は安堵するものの、けれどもロシュの表情は硬く、緊張感がある。強張った様子の彼に、ベイジルはまたもや不安を抱いた。 「エルズーリ! 偉大な母。貴方がなぜここにいる」  ロシュはベイジルを庇うようにして前に出ると、老婆と対峙する。どうやら彼の口調からして彼は彼女を知っているようだ。ベイジルは二人を交互に見比べ、話に耳を傾ける。 「そこをおどき! 小さきジェ・ルージュよ。お前がこれまで幾度となくそこな者の味方をして私の計画を邪魔してきたのは知っている。それでも手を下さなかったのは、我が子なればこそ。だがもう容赦はしない。私の坊やのため、邪魔をするならお前も地獄へ送り返してやろう」  ベイジルは驚きを隠せなかった。ーーというのも、老婆の言葉が引っかかったからだ。  彼女が言った、『そこな者の味方をしての私の邪魔をした』とはいったいどういうことなのか。ベイジルの頭が真っ白になる。

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