141 / 158

対決! 二人のペトロ。

 しかしそれもほんの束の間だった。何の前触れもなく、突如としてベイジルの脳内にふたつの映像が過ぎった。  初めに過ぎったのは、自分が借りているアパートの中だ。シングルベッドの上で身体を小さく丸め、何かに怯えている自分が見える。それはベイジルがスターリーにこっぴどく振られ、ロシュと出会ったばかりの頃のことだ。孤独に苛まれ、混沌とした恐怖に飲み込まれたあの時ーー。  そしてふたつ目。教会にいる子供たちにと粉ミルクの買い出しに向かった車が突然操縦不能になり、辿り着いた廃墟で大鎌を持った死神のような存在(もの)に殺されそうになったこと。それらふたつの出来事が脳内に蘇る。  白昼夢で見た恐ろしい出来事の数々はもしかすると夢ではなく、現実に起きたことだというのか。  強烈な恐怖がまたもやベイジルを襲う。身体の軸が奪われ、よろめき倒れる寸前、力強い腕がベイジルを抱き寄せた。 「ロシュ、あの出来事は現実だったの? 死神みたいなものに襲われたのも、逃げる時にお腹を強く打ち付けたのも、全部本当にあったこと?」 「まさかベイジルに見せたのか!?」  真っ青になった唇が僅かに動く。震える声でベイジルが尋ねる。しかしロシュは返事もせず、老婆を睨みつけた。  ベイジルの質問にロシュは答えない。その代わり、自分の身体を支える腕の力がずっと強くなった。それは肯定を意味しているのだと、ベイジルは理解した。  そして老婆もまた、ロシュの問いにただ無言のまま、杖の先で足下を突いた。

ともだちにシェアしよう!