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それじゃない。

 ーーいや、違う。ロシュがベイジルをどう思おうと構わない。たとえ戯れでもいい。自分がもう一度生きていこうと思わせてくれた彼を助けたい。なぜなら、自分はロシュを愛しているから。  彼だけだった。オメガという最も穢れた性を持った自分を対等に扱い、優しく手を差し伸べてくれたのはーー。人を信じる大切さも、生きる喜びも。ロシュから教わったものだ。ロシュがいなければ、自分もこの身に宿った赤ん坊も今頃は生きていなかっただろう。ロシュを死なせてはならないと、頭と心がベイジルに話しかける。 「お願いです、エルズーリ。僕の命ならあげる。だからロシュを離して!!」  ベイジルの視線がスターリーを飛び越え、今も尚ロシュを苦しめている大蛇に向かう。 「それは良い心がけだね」  ベイジルが言うな否や、大蛇の姿をしたエルズーリは、ぱっくりと開いた大きな口にちろりと長い舌を見せた。  ロシュの身体は戒めから逃れ、地面に落ちる。 「ロシュ、ああ、ロシュ!!」  ベイジルはロシュに駆け寄り、息があることを願った。 「ベイジル、君はなんという愚かなことを!」  意識はあるものの、ひどく息が乱れている。ベイジルを魅了して止まない赤い目は虚ろで焦点が合っていない。危機一髪だったことを知ったベイジルは、心から彼の命を助けられたことに安堵した。 「いいんだよ。社長令嬢との結婚を選んだ血も涙もない男に愛していると囁かれ、騙された僕が愚かだったんだ。お腹にいる赤ん坊だってきっと許してくれる」 (だって貴方を心の底から愛しているからーー)

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