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果てにあるもの。

「なんだって? 今、何と言った」  ベイジルがロシュをどうにか宥めたくてそう言えば、声は思わぬ方から聞こえた。顔を上げれば、ロシュと同じ赤い目を大きく見開き、瞳孔を細めた大蛇がこちらを見据えていた。 「お腹の、子供?」  大蛇に尋ねられ、ベイジルが話すと、 「それじゃないよ」  大蛇は忌々しげに首を振り、直ぐさま否定した。  ベイジルは、目の前の大蛇が動揺していることに驚くばかりで自分が何を言ったのか思い出せない。瞬きばかりを繰り返す。 「社長令嬢と結婚を目前としている」  そこでロシュが口を挟んだ。  しかしその声は何故かとても愉快そうだ。喉元を振るわせ、薄い唇が弧を描いている。  彼はいったい何が面白いのか、ベイジルにはさっぱりわけがわからない。ただただ口を開け、訝しげにロシュを見やればーー。 「私の坊や!!」  スターリーの名を呼ぶエルズーリーの声が怒気を含み、まるでおたふく風邪にでもなったかのように頬を膨らませ、顔を真っ赤にして怒りを露わにしていた。 「それはどういうことだい、私の坊や」  エルズーリーは背後にいる一人のアルファに尋ねた。 「いや、あれは嘘も方便というやつで、あの小汚いオメガから逃れるための口実だったんだよ。貴女という尊い女性がいるのにいったいどうやって社長令嬢と結婚するというんだ? 愛する人よ。どうかあんな小汚いオメガの言葉なんか信じないでおくれ」 「言い訳は聞きたくないね。私は坊やを裏切らなかったというのに、お前はこの私を見事裏切ってみせた!!」

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