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事の終わり。

「ロシュはペトロ神だったの?」 「ああ、おれはあの愚かなアルファの屋敷にあった古の書物で呼び出されたペトロ神だ。あの男はこの世でもっとも愚かな生き物だが、奴が言っていたことは本当だ。清く正しいラーダ神とは違い、おれたちジェ・ルージュの血筋は見合った代償を頂ければ人殺しだってなんでもする。神といえばそうだが、その中身は悪魔みたいなものだ。ーーおれはペトロ神の長、バロン・クロア(十字架の神)。最も残忍で且つ凶悪な存在」  ベイジルはどうにかして、彼が今どういう心情をもって打ち明けてくれているのか知りたいと思った。けれどもロシュの表情からは何も読み取れない。彼の視線はこちらにあるものの、どこか遠くを見ているようにも思えた。  ロシュがどこか遠くへ行ってしまうように思えてならない。  自分は最も残忍だと彼はそう言ったが、本当のところは違うと、今なら言い切れる。だって死神のような姿をしたエルズーリの使者に殺されそうになった時やエルズーリ本人に殺されそうだった今だって、ロシュは自分の身の危険も顧みず、こうして助けに来てくれた。  そもそもロシュが本当に残忍な悪魔なら、教会の子供たちがあんなに懐くはずがない。彼ならこのお腹の赤ん坊ごと自分を大切にしてくれる。自分の居場所はロシュ・サムソンの腕の中以外にはない。  ベイジルはロシュにどうにか自分の気持ちを伝えようと焦りを覚える。 「だけど貴方は僕を助けてくれた。ロシュ、僕はーー」 『貴方が誰だろうとかまわない。愛しているんだ』そう言おうとベイジルが口を開けば――するとおかしなことに、突如として言いようのない眠気に襲われた。瞼がひとりでに下りていくではないか。 「今はおやすみ。ダーリン」  やがてロシュの言葉を引き金にして、ベイジルは深い眠りへと誘われたのだった。

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