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終焉。

 †  ベイジルは心配することは何も無いと言わんばかりにロシュに身を任せるようにしてぐったりと寄り添い、深い眠りに就いている。  ロシュを魅了して止まないはしばみ色の目は、今は固く閉ざされている。それはこれ以上、彼に深く追求されないため、ロシュが催眠をかけたのだ。  果たして心配することは何もないなどと、そういうふうに思えるのはなぜだろう。実際、自分はいつだって危険と隣り合わせだし、自分に見合った報酬をいただければ人殺しだってなんだってする、ペトロという邪悪な神である。  その証拠に、人間には死神とも呼ばれている。その自分がどうやって彼に安心できる場所を与えてやれるというのか。  ロシュの眉間に深い皺が刻まれる。ジェ・ルージュの眼が穏やかな寝息をたてている汚れのない青年を見下ろした。  できることなら、澄んだはしばみ色の目に自分が写る姿をずっと見ていたかった。しかし、エルズーリと決着がつき、彼に身の危険が無くなった今、バロン・クロアという異名を持つ自分は彼の隣にいるべきではない。  彼に相応しい相手はけっしてこのような邪な愛とは無縁の存在ではなく、もっとずっと高貴な生まれで、自分自身同様によりベイジルを愛し、慈しんであげられる相手だ。  ――愛。そう、ロシュはベイジルを愛している。その気持ちに気が付いたのは、ベイジルが悪魔に異空間へと連れて行かれ、彼と彼の子供を失うかも知れないと思ったあの時だ。そしてベイジルの口から赤ん坊の愚かな父親の話を訊いた時、これまで味わったことのない激しい怒りを覚えた。

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