152 / 158

その後。

 †  地獄の巣窟ともいえる第七監獄は人間が想像するそことはまるで違うものだ。人間の血が流れる大河なんてものはないし、溶岩も地脈の遙か奥へ進まなければ目にすることもない。まあ、たしかに太陽はないが、代わりに闇が広がった頭上には満ち欠けを繰り返す月がある。  一切の濁りがない澄んだ河川に鬱蒼と生い茂った深い森は音楽が流れ、陽気に笑い合う者たちがいる。――とはいえ、その者たちは人間とは違い、目がひとつしかなかったり腕や足が三本も四本もあったりと多種多様ではあるが――。  それはさておき、ロシュのようなペトロ神でも人間と同じように笑ったり歌だって歌う。しかし自分たちが口ずさみ奏でる曲はいつだってポップではなくバロックだ。楽器だってそれ相応に整っている。ピアノやオルガンだってあるし、エレクトーンもある。当然、クラブだって存在する。  あるのは自分たちペトロ神を雇った傲慢な人間たちの愚かな話程度だ。しかしペトロ神は以外にも同族に対してはかなりおしゃべりで、話したがり屋が大勢いる。おかげでこのクラブハウスも大いに賑わっている。しかしここにロシュの舌を魅了する酒がない。そしてベイジル・マーロウという人間も――。  ロシュは無事にベイジルを歪みの空間から元の世界に送り届けると、彼が眠っているその間に第七監獄へと戻ってきていた。  彼と別れていったい何ヶ月が過ぎただろう。ロシュの傍らには人間界から持ってきた酒を数本置いている。あんなに美味いと感じた酒も、なぜかまったく味がしない。それもその筈。ロシュの心はこの場にあってないも等しいからだ。

ともだちにシェアしよう!