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頼むから放っておいてくれ。

 あのはしばみ色の目をもう見られないのだと思えば冷たくなる心とは裏腹に彼を抱きたいと彼の身体を求めて熱を持つ。  しかし自分では彼が求めている平穏な暮らしは愚か、身の安全さえも保証できない。果たしてこれほどまでにペトロとして生まれてきた自分の性を呪ったことがこれまでにあっただろうか。今の自分にできることは、ベイジルが彼により相応しい男性と巡り会うことを願いながら愚かな自分を罵ることくらいなものだ。  バロックの曲が鳴り響き、同胞たちが談笑する騒がしい店内で、ロシュは一人席に座り、人間界から持ち込んだ酒を呷る。 「こんなところで何をしているんだい、バカ息子」  すると突然、酒に飲まれ、顔を真っ赤にして自己嫌悪に陥るロシュに嗄れた声で話しかけてきた。人間で言うなら年の頃は八〇歳前後。枯れ枝のように細い手足にふくよかな腹部。ただでさえうんと低い背なのに腰を折り、杖をついて立っている。同じジェ・ルージュの名を持つ者だ。彼女の赤い眼にはサングラスで覆われ、表情は上手く読み取れないが、何か不満のようだ。唇はへの字に曲がっている。 「あれはどうしたんですか?」  ロシュが尋ねた『あれ』とはもちろん、彼女と契約を交わしたものの身勝手極まりないスターリー・ジギスムンドのことだ。あれには散々ベイジルが苦労を負わされたのだ。エルズーリの元にいなければ自らの手で裁いても裁ききれないほど憎い相手でもある。まあしかし、彼がいなければロシュはあの夜ベイジルに会えなかったのも事実。そう考えると、スターリーに呼び出されて良かったのかもしれないとは思うものの、それでもベイジルを人形のように扱う彼には怒りを覚える。  彼にはもっと重苦しい処罰が必要だ。

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