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突然の呼び出し。

「もう放って置いてくれ」  ロシュは頭を振り、世話を焼いてくるエルズーリを拒絶する。 「おや、どうやらそれも叶わないようだよ」  彼女の声が小さくそう告げた途端だった。今までたしかにあったバロックの曲や喧噪が遠のく。そして目を開ければ、そこは古ぼけた小さな書庫があるばかりだ。  果たして自分はいったいどうしたのだろうか。クラブも、演奏していた者も客も、エルズーリもいない。静寂が広がるばかりだ。  しかしここには見覚えがある。たしか数ヶ月前、愚かな一人の人間に呼び出された時もここではなかったか。  呷った酒で頭がくらくらする。回らない思考に追い着かない。おまけに身体がふらつき、少しでも歩こうものなら関節があらぬ方向へ曲がりそうだ。自分の思うように動けない。  アルコールに足を取られ、苛立つロシュは小言を呟く。回らない思考のまま周囲を見渡せば、いる筈のない一人の人間に目が止まる。  驚くことに、ロシュがどんなに想いを寄せても報われない彼、ベイジル・マーロウがいるではないか。ロシュの頭はまるで冷水を被せられたようにアルコールが一気に飛んで消え失せる。頭を金槌で殴られたような気がした。  はしばみ色の目には躊躇いを隠せないロシュが写っている。彼は一冊の本を手にしていた。それはバロン・クロアの呼び出し方法が載っている書物だ。

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