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突然の呼び出し。

 †  ロシュ・サムソンは、古びた街の一角にある、『departed soul's bar(死霊の酒場)』にいた。  もちろん、ここは地獄の巣窟――第七監獄という、死霊が彷徨い、闇が(とどろ)くもっとも恐ろしい冥界ではない。  ここは人間界。  しかもヨーロッパのかなり端にあるオリーブ畑が連なる田舎街――の筈だった。  しかし今はどうだろう。  突然の浮遊感に足下を掬われたかと思えば、彼は湿気が充満する、六帖ほどの狭苦しい一室のそこにいた。  天上には裸の豆電球がたったひとつ、無造作にぶら下がっているのみだ。  かび臭い匂いが鼻をつく。  だからここは地下室に違いないと、ロシュは理解した。    ではなぜ、酒場にいた自分はここにいるのだろう。  けれどもロシュの中で生まれ出たその疑問は目の前にいる一人の男を見るなり理解できた。  彼が手にしている本のタイトルは、『BOODOO』  すなわち、ブードゥの魔術について記されているものだった。  つまるところ、ブードゥとは呪術に関するたぐいのものだ。  そしてそれは、大いに自分と関係がある。  なにせ彼は数あるペトロ神の中の一人なのだから――。  ブードゥには主にふたつのチームによって分けられる。  ひとつはラーダ神と呼ばれる神々だ。  このチームの神々は温厚で優しく、鳩や鶏といった生け贄を捧げることで願いを叶えるが、いかんせん魔力は弱小である。

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