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ふたつの属性の神ーーラーダとペトロ

 それに対して、自分が属するペトロ神は違う。  この属性の神々はかなりの魔力を持ち、そして邪な存在だった。  それだけに、ラーダ神では治せない難病も、彼らならば意図も容易く治療することができた。  しかしその分、依頼主はかなりのリスクを伴う。  そのリスクは、呼び出されたペトロ神の力量によっても変化するが、ほとんどは生け贄にブタや山羊。それから羊――はたまた墓場に埋まっている依頼主の大切な人の死体を要求することも多々あった。  ――さて、目の前にいるこの男はそれを知っていてペトロ神(自分)を呼び出したのであろうか。 「あんたがそれなのか? どう見ても普通の人間にしか思えないんだが――」  頭のてっぺんからつま先まで、男はロシュに視線を走らせたのち、ぽつりと呟いた。  なんとも失礼極まりない男だろうか。  自分の名を名乗りもせず、さらには神であるロシュを、この陰湿な部屋に呼び出しておきながらも蔑んだ物言いをする。  ロシュは不快を覚えた。  しかしまあ、彼が疑うのも無理はない。  なにせ今の自分の容姿は、人間でいうところの年の頃なら三〇代前半で、肩までの髪を後ろ手にひとつに束ねた漆黒の髪と浅黒い肌。やや先端が尖り気味な耳には四カラットのダイヤモンドのピアスで飾っている。  細身だが引き締まったその身体は漆黒の礼服を身に(まと)い、洗練された身のこなしはけっして悪魔とは言い難い。  けれどもロシュの目は赤く、この世界の人間にはない色をしていた。

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