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狂おしい熱

 †  数えるほどしかない頼りない街灯が夜道を照らしている。  身体はまるで灼熱の炎に焼かれているかのように熱く、鉛を抱いているように重たい。  ベイジル・マーロウはひとり、足を引きずるようにして薄暗い夜道を歩いていた。  ここ、ニューオーリンズは蛇行するミシシッピ川に沿う地形をしていることから、別名三日月の街(クレセント・シティ)との愛称で人々に親しまれていた。  水域は陸地のほぼ半分を占めている。冬は過ごしやすいが夏は極端に湿度が高く、暑い。亜熱帯地域でもあった。  そのおかげで四月でも蒸し暑い。おそらく気温は三〇度近くはあるのではないだろうか。それでもベイジルの身体を襲うのはその暑さとはまた違ったものにあった。  ベイジルは今、ヒート状態に悩まされていたからである。  ヒートというのは発情期の中でみられる症状で、決まった周期に起こるものだ。  これがアルファやベータにのみわかる、強力なフェロモンを発し、彼らを誘惑するのである。  しかし、ベイジルは身ごもっている。  発情期はもはや無用の長物にすぎない。  それなのに、ヒート状態になるなんて思いもしなかった。現にここ三ヶ月間はこのような()まわしい状態は起こらなかった。  だから子を宿せばヒート状態も消え失せると思っていたのだが、どうやらそれは大きな間違いだったらしい。  よりによって、長年付き合っていた彼氏に振られた直後にオメガの効果が発揮されるとは――。  ――もしかするとこんな時だからこそだろうか。

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