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身分不相応
もしかするとベイジルの体内に宿った小さな命は片親を欲しているのかもしれない。これから生まれてくるこの子だって無能なオメガの片親に育てられる不安もあるだろう。
なにせ自分は誰彼構わず誘惑する卑しい人間だ。このような穢らわしい存在が親だなんて考えたくもない筈だ。
ベイジルは、まだ膨らんでいないその腹部に手を当てた。
さて、この命をどうすればいいだろう。
自分ひとりでは、生命を育てる自信はない。
それは人としてというだけでなく、金銭的な問題もあった。
世間ではオメガは厄介な存在だ。
自分がオメガだと知られれば誰も雇ってはくれないのが現状だった。
唯一雇用してくれるのは、アルファやベータが嫌がる危険な仕事ばかり。今だって煙突掃除をしてお給金をもらっている。
自分ひとりの生活でやっとの状態なのだ。それを二人分の生活費ともなれば、どんなに身を犠牲にしなければならないのか。
かといって、せっかく宿った命を自分勝手な一存で葬り去るなんてできない。これからの生活を考えただけでも胃がきりきりする。
不安だらけで身動きが取れない。
未来なんて考えたくない。
それでも、明日は必ずやって来る。現実から逃げようもないのはわかっている。
けれども打ちひしがれた今夜だけはひとりで思いきり泣かせてほしかった。
最愛の人に裏切られ、泣きたいくらいに悲しくて、胸が押し潰されそうに痛む。それなのに……自分は今、ヒート状態になろうとしている。
こんなにも心が苦しいのに、情交を求める自分は本当にどうかしている。
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