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魅惑的。
†
誰かが背中を撫でている。
手は男性のものだ。大きく骨張っているし、何より力強さがある。
ベイジルは未だ虚ろな夢の中に彷徨いながらも潤いのある声を漏らした。するとベイジルの声に反応するかのように、背中にあった手はゆっくりと腰へ移動し、臀部をなぞるようにして撫でる。
身体を這い回る手の動きはとてもじれったい。
ベイジルは魅惑的な手にすっかり悩まされていた。おかげで彼の手に刺激されたベイジルの身体はたちまち炎を宿す。
赤い唇からは喘ぎにも似た声が発せられた。
臀部を撫で回されるのも魅力的ではあるが、太腿の間にある身をもたげはじめている自身の欲望にも触れてほしい。
ベイジルは身動ぎ、ぬくもりを求めて手を伸ばす。目の前にある彼の肌に触れた。
――ああ、彼の手もさながら、肉体も完璧だ。
目をつむっているから定かではないが、シャツがはだけた胸元は広く、引き締まっている。頬を擦り寄せればしっとりと心地好い。
ベイジルも負けじと彼の胸元をひと撫ですれば、聞き慣れないくぐもった低い声が発せられた。
そこでベイジルははっとした。
目を開ければ、視界に飛び込んできた人物はスターリー・ジギスムンドでも知り合いでもない。初めて見る顔だった。
彼はロマだろうか。浅黒い肌をしている。けれども肌の色も彼の端正な顔立ちの前では美貌のひとつでしかない。
若く引き締まったその肉体はまるで名だたる巨匠が彫った彫刻のようだ。
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