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新たな契約者。

 † 「くそっ!」  スターリー・ジギスムンドは胸の中に延々ととぐろを巻いているどす黒い怒りを抑え込むことができず、手にしていた薄汚い本をありったけの力を込めて地面に叩き付けた。  本はごとんと鈍い音を立てて埃が舞い散る。ひとりでにページが捲れていく……。まるで自らの意思でスターリーに見せるようにして例の悪魔を呼び出す呪文が書き記されたページで止まった。  その光景すらも実に腹立たしい。  スターリーは苛立たしげに鼻息を荒げ、怒った。  彼を呼び出したのは主人である自分だ。  主人を差し置いて意見するなんて許せるはずもない。  アルファの中でもすべての者の頂点に立つべき自分が、たかが悪魔一匹に拒否されるなんて。あの悪魔はいったい何様だろうか。  蔑むような目で主人を見るどころか、背を向けて出て行くなんて以ての外だ。  実に不愉快。実に失礼極まりない。  それにあの悪魔が要求した条件はなんだ。  スターリーのもっとも尊いものを捧げろと言うではないか。  たかがオメガ一匹。害虫にすぎない人間の命を始末するために、あの悪魔は一匹の害虫とスターリーにとって尊い存在を天秤にかけた。  もちろんスターリーにとって、何よりも一番尊いのは自身の命である。自分以上に慈しむ存在なんてあるはずがない。それはわかりきっていることだ。  アルファの中でも最も優れた能力を持つ自分はまさにピラミッドの頂点に立つに相応しい。自分は選ばれしアルファだ。誰よりも気高く、誰よりも尊い。

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