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エルズーリー

 それなのに――。  よりにもよって自分の命を差し出せなんて要求をよくもぬけぬけと口にできたものだ。 「愚かな悪魔め! 何が十字架の神(バロン・クロア)だ!! 人間がいなければ存在価値すらないただの愚者が!!」  二十五年という月日を生きてきた中でこんな侮辱を受けたのは生まれて初めてだ。  スターリーは悔しさにぎりぎりと歯を噛みしめ、癇癪を起こした。  赤い目の悪魔が去ってから半日も過ぎているのにスターリーの中にある怒りは一向に治まる気配がない。  彼は怒りにまかせて唸り声を上げ続ける。するとどうしたことだろう。おかしな現象が起こった。  スターリーがついさっき投げ捨てた薄汚い本のページが、風もないのにひとりでにぱらぱらと捲れていくではないか。  これはいったいどうしたことだろう。  スターリーはごくりと唾を飲み込み、ひとりでに動く本を見下ろしていると、あるページになったとたん、それはぱったりと止まった。  そのページはおかしなことに、他のページよりもずっと年季が入っているように見える。端が焦げた後のように茶色く変色し、黄ばんでいる。  スターリーが(いぶか)りながらもそのページを覗き込むと、そこにはこう書かれてあった。 『貴方がもし、誰よりも尊いであるならば、わたしは非情に情け深い神になりましょう。貴方が望むものを見返りも求めず、ただ幸せにします。』  そして次に、ひとつの女神の名が記されていた。 『エルズーリー・ジェ・ルージュ』

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