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見入られない効果

 †  ドアが閉まると同時にオートロックの無機質な音が響く。  ベッドとナイトテーブルしかない閑散とした十帖ほどのその部屋に、彼は独り取り残された。  ロシュは驚きを隠せなかった。それというのも、ロシュは神だ。その仕事内容は――といえば、すでにリストアップされている寿命が尽きた人間を魅了し、冥界へと連れて行くことにある。彼はあらゆる魅惑術を駆使し、誰も彼もを魅了する力を持っていた。  しかし、どうしたことだろう。ベイジル・マーロウは自分の誘惑をあっさりと断り、ロシュが用意した舞台から退場した。魅惑術が効かない。  それは初めての出来事だった。  ロシュにとって、身体だけの関係はよくあることだ。なにせロシュの容姿は優れている。だからわざわざ魅惑術を使うまでもなく、男女問わず言い寄ってくる人間はごまんといた。  その中でも、ベイジル・マーロウとの情交はこれまで彼が経験したどんな情交よりもずっと甘く、ずっと強烈だった。  身体の相性が良いというのだろうか。これまでどんなに抱いても満たされることのなかった欲情が、たった一夜の情交で満たされるとは――。これは予想さえもしていなかったことだ。  たしかに、昨夜は一度や二度精を吐き出しただけでは満足はしなかった。しかし彼を組み敷いているうちにみるみるうちに満腹感を得ることができたのだ。  とどめはベイジルがヒート状態になっていた今朝方――。  オメガのフェロモンはロシュの誘惑術と似ている。

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