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魅了する身体

 狂おしい熱と、そして相手を欲する欲望。  自分の術を自分でくらったように思えるほどの強烈なものだった。  しかし、ロシュはそれを抑え込むことに成功し、見事彼の誘惑を打ち破ることに成功した。  ロシュが堪えることができたのは、ベイジルの身体がすっかり強張っていたからだ。  あれではいかに快楽を与えようとも全面的に快楽を感じることは不可能だ。その状態ではロシュが思っているような食事ができない。そう判断したからこそだった。  ロシュにとっての食事はすべての動物に備わっている本能――つまりは情交にある。  ロシュは相手との情交の最中に発せられる性的なフェロモンをいただき、そうして魔力を維持し、さらに強力にするのだ。  赤い目のバロン(バロン・ジェ・ルージュ)。  十字架の神(バロン・クロア)。  ロシュは人々から様々な名で呼ばれているが、もうひとつ、彼には異名があった。  淫魔、と――。  しかしあのような甘美な食事はこれまでに味わったことがない。  それがベイジルという人間の生まれ持った気質なのか。それともオメガという性だからなのか。  けれどもロシュにとって、彼は間違いなくご馳走。  人間の食事でいうならばメインディッシュだ。  できることなら今夜もまた、ベイジルを味わいたい。  ロシュはベイジルを手放すのが惜しいと思った。だからこそ、彼を第一に考え、今回抱くのを諦めた。  しかしまさか彼が身ごもっているとは思いもしなかった。  それはベイジルとの情交の真っ直中のことだ。ベイジルからもうひとつ別の新鮮であたたかなエナジーが読み取れた。

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