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生と死
小さいが生命力溢れる赤ん坊。
ベイジルの中には新しい生命が宿っていたのだ。
ロシュは死神だ。人を冥界へと連れて行く役割を担っている。だから人間の生命にはとことんまで敏感に察知する力があった。
『誕生』と『死』は一見すると両極端なものではあるが、しかしその実は同じ部類に所属する。
それというのも、彼ら人間は輪廻転生というひとつのサークルを繰り返し、生きているだけなのだ。何千、何億と月日が過ぎても魂は変わらず生き続ける。
愚かな人間たちは死を絶望だと思い込んでいるが、実は違う。
死は終焉と同時に誕生でもある。ひとつの死を迎えれば、やがてそれは時を越え、間もなくして生となる。
永遠を生きるロシュら悪魔や神の類ともなれば、彼ら人間はただ単純に今まで被っていた古くなった身体という皮を脱ぎ捨てているだけにすぎないのだ。それはまるで、蛹が蝶へと変わるそれと同じように……。
魂が新しい器という肉体を手に入れる瞬間――それこそが人間でいうところの誕生である。
果たしてあの腹に宿ったあれはいったい誰の種によるものなのか。
たしかに、ベイジルを愛している人間がいるとすれば、ロシュの魅惑的な誘いを断る理由はある。
しかし何故だろう。ベイジル・マーロウからは番に愛されているという、満たされたエナジーが一向に伝わってはこなかった。
死神だからこそわかる、魂に傷がついた状態。それが彼に見受けられた。
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