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疲労する心と身体。

 †  何事もなく無事に一食分の代金を受け取ったベイジルは次の煙突掃除に向かうべく(きびす)を返した。  ……身体が鉛のように重く、怠い。  その原因はわかっている。昨夜、ヒート状態になったのが事の発端だ。  きっと誰彼構わず恐ろしいフェロモンで誘惑し、抱かれたのだろう。  現に今も抑制剤を飲んでも下肢が疼いて止まない。  こんなにも腰が重く、怠いのに自分はまだ抱かれるのを望んでいるなんて……。オメガという愚かしい性にはほとほと呆れてしまう。  ――できることなら今日だけは何も考えずにうんと休みたい。  夜通し抱かれた身体も、愛していた人から裏切られた心も――すべてがボロボロだ。けれども自分にはそんな余裕はない。今日を生き抜いていくための金が必要だ。  いや、訂正しよう。仮に今日の生き抜く金があったとしても何かにつけて動く理由を探しているに違いない。  なにせベイジルの頭には今朝方まで一緒にいた男性が棲み着いているのだから……。  肩まである漆黒の髪にしっとりとしたシルクのような浅黒い肌。均衡がとれた美しいアルファ。ロマの彼。こうしている今だって考えるのは彼のことばかりだった。  ああ、彼との情交はいったいどんなものだったのだろう。  あのベルベッドにも似た美しい肉体はずっと触れていたかったし、寝起きだったからだろう少し(しわが)れた低音もベイジルの気持ちを穏やかにしてくれた。  おそらくは彼との一夜はとても心地好かったに違いない。

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