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赤い痕跡

 けれどもこれほどまでにロシュの官能を引き留める相手と出会ったのは今夜、彼がはじめてだった。  それはオメガという性だからなのか。  滑らかな肌も、艶やかな声も。魅惑的な三角形の間から放たれる木蓮の匂いも――。  何もかもがロシュの好みだ。 「君の名前は?」  たった一夜の相手に名前を尋ねるなんて馬鹿げている。  しかしできることなら今夜だけではなく、またこうして彼と情を交わしたい。  願わくば、自分にのみ、身体を開くように仕向けたい。  ロシュはすっかりこの魅惑的な身体の虜になっていた。 「ベイ、ジル……」 「ベイジル・マーロウ」  ロシュが彼の耳孔にそっと息を吹きかけ囁けば、魅惑の彼は舌なめずりをして答えた。  ――果たしてこの名はどこで耳にしたのだろうか。  聞き覚えがあるその名に、ロシュは眉根を寄せる。  けれども今は頭で考えるどころではない。  目の前にいるすっかり潤っている秘部に自らの欲望を埋めたい。  こうしている間にも、ロシュの欲望は血管を剥き出しにして、ベイジルの中に楔を打ち付けたいとせがんでいる。 「ベイジル、良い名だ」  薄い唇が彼の名を褒め称え、耳朶を甘く食む。  もちろんその行為の間にもロシュの指は止まらない。内壁を掻き混ぜるロシュの指はベイジルが流す蜜ですっかりふやけている。  ロシュが指を動かすたびに華奢な腰がベッドの上で跳ね上がる。  身体をくねらせ、艶やかに舞う。  彼の甘い声をもっと聞きたくて、ロシュは緩やかなS字になっている鎖骨を食む。  吸い上げれば、華奢な身体がいっそう弓なりに反れた。  これでしばらくの間はベイジルの柔肌にくっきりと赤い痕跡が残るだろう。

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