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禁句

「はい、なんでしょう」  彼女はうっとりとした様子でロシュに問うた。 「実は人探しをしていまして、彼の情報を知りたいんです」  しかし、ロシュが尋ねたとたん、彼女の虚ろだった目は曇った。どうやらロシュの質問は彼女にとって禁じられた内容だったらしい。 「失礼ですが貴方は警察ですか?」 「いいや」  眉を潜め、(いぶか)しげに尋ねられ、ロシュは首を振った。 「では申し訳ございませんが、ご本人様でなければ情報を開示することはできません」 「彼は十年前に生き別れた家族かもしれないんだ。どうにかできないかな」  悪魔にとって嘘は日常茶飯事だ。とりわけ、大切なところ以外のほとんどは――。  悲劇の主人公を演じることに決めたロシュは、再度彼女に尋ねてみる。 「申し訳ございませんが、いくらご家族の可能性があっても無理なんです」  しかし彼女は首を振る。  けれどもここで引き下がってはせっかくの豪華な食事が台無しになる。ロシュは尚も食らいつき、神にでも許しを乞うように両手を顔の前で合わた。 「どうかお願いだ。彼は生き別れの弟かもしれないんだよ。セニョリータ。住まいだけでもいいんだ」  母性を引き立たせる男性には誰もが弱い。それはこの世界に限ってではなく、すべての世界で共通だ。たとえそれが恐ろしい悪魔であっても、女性だとか男性だとか性別なんていうものも関係ない。  相手が魅惑的で色男なら誰だってなびく。  ならばこれを利用する手はない。

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