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公衆電話。
彼がもし、少しでも足を踏み外そうものならば直ちに助けなければならない。なぜならば、ロシュのリストには彼の名前は載っていないのだから――。
ロシュが曇った顔をしながらベイジルの作業を見守る。当の本人はロシュに見られているのも知らず、煙突掃除を無事に終わらせた。
彼は危なげな足取りで屋根を下り、雇い主がいるであろう家に入った。
これからもこんな危ない仕事をずっとこなしていては彼の身体にひびく。
なぜなら、ロシュはベイジルを手放す気はないのだから――。
そして今夜もまた、ロシュはあわよくば彼を組み敷こうと考えている。そのためには、彼にはうんと健康でいて貰わねばならない。
ロシュの食事のためにも!!
……仕方がない。
ロシュはベイジルがなかなか姿を現さないのをいいことに、近くにある公衆電話ボックスに入った。
電話先はこの近くにある教会だ。
その教会は親を失った子供たちの保護をしている場所で、子供たちには牧師やシスターの仕事を手伝わせ、世の中で生き抜く糧をそこで見いださせるという慈善活動を行っていた。
ロシュがそこに電話をしたのはひとつ思い立ってのことだ。
以前、そこで働いていた一人の女性がロシュの仕事でリストに乗ってしまい、冥界へと魂を連れて行ったことがった。
彼女は五十三歳で夫はすでに亡くなっていたが、娘も孫もいる。家庭は順風満帆で穏やかだった。その彼女の死因は不運な交通事故。
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