51 / 158

仕事の向き不向き。

 信号無視の車と接触し、意識不明の重体でそのまま帰らぬ人となってしまったのだ。彼女はとてもおおらかな女性で、今、ロシュが電話を掛けようと思っている教会に勤務していた。  彼女は孤児たちに慕われ、彼女も孤児たちを我が子同然に可愛がり、大切にしていたのだ。  その彼女がいなくなり、所属していた教会は人手不足になっていて大忙しだと、たしかその教会を物陰から手伝っている天使たちが騒いでいた。  それもそのはずだ。  なにぶん、教会に引き取られた子供たちのほとんどは父親や母親に見限られ、捨てられたり虐待された過酷な生い立ちを背負ってきた。おかげでなかなか大人に心を開かない。  そういうこともあってか、彼らを監督する大人が見つからないのが現状だそうだ。  なんでも子供好きの大天使メタトロンはたしか彼らをあやすのに必死だとか――。  だが、ロシュが見る限り、彼――ベイジルならば上手くやれるような気がする。  なにせ彼は人々から蔑まれ生きているオメガの性である。自らの心の痛みを知っているからこそ、心に深い傷を負った子供たちのことも十分理解できるのではないか。  それに彼はいずれ子を持つ。ベイジルならば、きっと孤児たちにとって良い相談相手にもなるだろうし、子育ての準備もできる。これはまさに一石二鳥ではないだろうか。  少なくとも、自分の命を投げ出すような危うい煙突掃除なんかよりはずっとましだ。  そう考えたからこそ、ロシュは電話のダイヤルを回したのだ。 「はい、チャストロミエル教会です」  いくらか耳元でコール音が鳴った後、電話に出たのは四十代の落ち着いた雰囲気がある女性だった。

ともだちにシェアしよう!