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賑やかなBGM

 彼女の傍にはおそらく子供たちがいるのだろう。泣き声や笑い声が受話器から賑々(にぎにぎ)しく聞こえてくる。  ロシュは子供が苦手だ。大人では思いつかないユニークな発想に度肝を抜かれるし、何を考えているのかわからない上に突然の行動力は大人以上。あんなに小さな身体でよくもまあ、あそこまで動けるものだと感心してしまう。  そして彼らの自己主張は恐ろしいほど強い。  騒々しい子供の声をバックグラウンドミュージックにして話さねばならないと思えば気分は憂うつだ。  それでもロシュはこれをクリアしなければならない。自分の命が軽々しいものだと思っているあの愚かなオメガの彼を知らしめるために――。  ロシュは静かに呼吸すると話を続けた。 「もしもし、ぼくは、『ライトブライト』という派遣会社の者ですが、ひとりご紹介したい方がいましてお電話をさしあげました」  もちろん、これは嘘だ。  自分は死神であって秩序ある神でも況してや『輝く者(ライト・ブライト)』でもない。  我ながら、『光り輝く』とはよく言えたものだとロシュは顔を(しか)めた。  悪魔とは常に虚実を混ぜ込み、人間を信じ込ませるプロフェッショナルでもある。  人間の記憶をほんの少し操作することは容易い。しかしこれのために魔力を使うのも事実だ。  ロシュはゆっくり息を吸うと、吐く息に併せて受話器の配線から相手先へと魔力を送り込む。  魔力を失うのは辛いが、しかしすぐにこの魔力は倍になって戻ってくると思えば安いものだ。  この仮は今夜にでも彼の身体をもって支払って貰えば良いだろう。

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