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その報酬額

「まあ、いつもお世話になっております。実はほとほと困り果てていたもので、たいへん助かります」  ロシュの誘導魔力を受けたシスターは満足げだ。ロシュにとってシスターと話すのはこれで初めてであるものの、彼女の方はといえば、まるでロシュとは長い付き合いだとでもいうように、親しみのこもった口調が返ってきた。 「それはよかった」  ロシュは目を細め、目尻に皺を作った。  言葉や声は態度によって変わることを彼は十分熟知していたからだ。  せっかく魔力を使ったのに相手の機嫌を損ねてはすべてが水の泡になる。相手の機嫌を損なうわけにはいかない。  そしてロシュは続けた。 「一人、シスターにご紹介したい人がいまして。男性なんですが、彼はとても仕事熱心で思いやりのある人なんです。もしよろしければ面接だけでもお願いしたいのですが、いかがでしょうか」 「それは有り難いですわ。男性がいらっしゃると心強いですもの。それでいつお会いできますか?」  彼女はどうやら本当に困っていたようだ。  ロシュの言葉を聞くなり声を高らかに早口でまくしたてた。  そこでロシュは(くだん)の家を横目で見ると、ベイジルが今まさに屋敷の主人と思しきひとりの男と一緒に玄関から出てきたところだった。  彼は主人から報酬を受け取っている。ざっと見積もっても一〇ドルあるかないかだ。  その報酬額を見てロシュは顔を顰めた。  危険な仕事を請け負ったというのに、あの金額はいくらなんでも安すぎる。  あれではファーストフード一食を買ってしまえばそれで最後だ。後は何も手元に残らない。

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