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二の舞

「ぼくを追いかけてきたんですか?」  ベイジルは、思わずほうっとため息をついてしまいそうになる唇を噛みしめた。  気に入らない。  自分のことをただの暇つぶしとしか考えていないスターリーやこの男性も。  そして何より、懲りもせず身体の関係を持ちたいと思っている自分自身にも――。  心の中で不快な気持ちがいっそうベイジルを襲う。  ベイジルが不機嫌になって尋ねると、彼はにやりとした。  なんということだろう。彼はベイジルが魅了されていることをとっくに気が付いている。  ベイジルは眉を潜めた。 「どうしても魅力的な妖精(ニュンフェ)を捕まえたくてね」  軽快な低音で彼はそう言うと、腕が伸びてくる。  彼が自分に触れる。そう思った時、身体中の血液は血管内をとてつもない勢いで駆け巡っているのを感じた。  ベイジルの身体が彼の体温を求めている。  しかし自分はもう二度と、あんな馬鹿な思い違いをしてはならない。世間では子供を孕むことしか価値がないオメガは奴隷としてしか見なされない。  どう足掻いてもアルファはおろかベータすらとも対等には成り得ないのだから――。  もうスターリーの二の舞はうんざりだ。 「言ったはずです。ぼくは男娼じゃない。そういった関係を求めるのならぼくではなく他を当たってください」  自分はオメガであっても売春婦ではない。弄ばれるなんてまっぴらごめんだ。  ベイジルは、やがて時が経てば大きく膨らんでいくだろう腹に手を乗せ、目尻をつり上げた。

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