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行くべきところ。

「生憎ですがぼくには行くべきところがありますので」  ベイジルは後ろ髪を引かれる思いで彼の手を避け、通りすぎる。  しかし、男はベイジルを逃す気はないらしい。突如として骨張った手が、デッキブラシを持っている方のベイジルの手を掴んだ。 「なにをっ!!」  驚くベイジルを余所に、男は無言のまま恐ろしく強い力で小枝のように細いベイジルの腕を引っ張っていく。  ベイジルは恐怖に駆られた。胃から酸っぱいものが上り、食道を通って口の中に広がる。  彼はいったいどこへ自分を連れて行くというのか。  抱かれるのはもう嫌だ。  身体だけの関係なんていい加減うんざりなのに!! 「いやっ! 離して!! 誰かっ!!」  ベイジルがどんなに声を上げても、しかしここは静かな住宅街だ。誰も助けに来てはくれない。  自分はまたこの男に組み敷かれてしまうのだろうか。たしかに、ベイジルの身体は彼を求めている。けれども心は違う。愛されてもいない相手に抱かれるのはもうごめんだ。  恐怖で胃が竦む。腹の底から悲鳴を上げる。  首を振り、嫌だと主張するベイジルは、しかし為す術もなくロマの男に引き摺られていく……。

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