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チャストロミエル教会

 †  ――いったいどのくらい歩いただろう。  てっきりベイジルはホテルに向かわされるのかと思った。  心から求めてもいないこの男性に組み敷かれ、また一夜を過ごすのだと思った。  しかしどうやらそれは違ったらしい。  連れてこられた場所は喧噪とはかけ離れた閑静な場所だ。  泣き叫ぶベイジルが引き摺られてやって来たのは、木々に囲まれた古めかしいが厳かな雰囲気のある静かな教会の前だった。  立派な教会の前には四十代の女性が立っている。彼女はここの責任者だろうか。黒地のくるぶしまであるトゥニカに頭にはウィンブルを被った修道服に身を包んでいる。女性の身のこなしには年季が入っていた。 「よくお越しくださいました。ミスター……」 「ロシュです。ロシュ・サムソン。こちらの彼が面接希望者のベイジル・マーロウです」  彼は目の前にいるシスターに手を差し伸べられ、互いに握手を交わした。  そこでベイジルは苦虫を噛むようにして顔を歪めた。  それというのも、彼が自分の名を知っていたからだ。おそらくは昨夜、情を交わした時にでも尋ねられ、安易にしゃべったのだろう。  なんということだ。自分はどこまで失敗を積み重ねれば気が済むのか。  そして彼の名前はロシュ・サムソンと言うらしい。たしかに、彼は太陽の人(サムソン)という名に相応しい。すらりとした容姿や風体からして神に愛されているだろうことがわかる。この地域では見たことがない赤い瞳は皆を虜にする輝きがある。

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