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面接官

 それにあのへの字に曲がった薄い唇。彼との口づけはどんなに心地好いことだろう。昨夜の記憶がないことが悔やまれてならない。  そして気が付けばベイジルははまた彼に見惚れていた。  それもこれも彼の容姿が完璧すぎるから悪いのだ。  ベイジルは首を振り、自分の考えをどうにか戻すよう努めながらも目の前で交わされる挨拶を遠目で見つめていた。  それにしてもロシュはいったいどういうつもりで自分をこの教会に連れて来たのだろうか。ベイジルには彼の意図していることがさっぱり理解出来ずにいた。  目の前で繰り広げられている二人のやり取りを(いぶか)りながら見つめる。 「サムソンさんにマーロウさんですね。わたしはこの教会の責任者を務めさせていただいているクリオネラ・デライトですわ。さあさあ、どうぞこちらへ」 「えっ? あのっ!!」  今度はシスターに腕を引っ張られ、ベイジルは狼狽(うろた)えた。  彼らはいったい自分をどうするつもりなのだろう。  自分に何をさせようというのか。 「実は、急なことで履歴書は持ってきておりませんでして……」  そこで透かさずロシュが口を開いた。 「いえいえ、良いのですよ。大切なのは子供が好きかどうか。子供に好かれるかどうかですから。『ライトブライト』さんにはいつもお世話になっていますし、人選には問題ないと思うのです。ですから面接官は子供たちに任せようかと思います。ベイジルさんには早速明日からこちらで働いていただいて、様子を見させていただきますわ」

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