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新手の詐欺!?
明日からのことを考えると不安はあるが、彼のおかげでこの仕事に就けるようになったのも事実だ。有り難いとも思う。
しかし、問題はこの後だ。
「さて、今晩のことだが――」
ほらきた。
ベイジルは唇を噛みしめた。
それというのもベイジルは、ロシュが自分をここで働かせるように仕向けたのもすべてはこの為だと気が付いていたからだ。
間違いない。彼は今夜も自分を抱くつもりだ。
そのために、ベイジルを手懐けようと、こうして気の向かない職業を監督することにしたのだろうから。
だいたい、彼がどうやってシスターを説得したのかはわからないが、『ライトブライト』という会社自体が存在するのかが疑わしい。
甘い言葉で相手をその気にさせる手法だって彼ならやりかねない。新手の詐欺かもしれない可能性だってある。
彼ならば言葉巧みに人を欺く事なんて朝飯前だろう。
ロシュの邪な考えは見え見えだ。
とにかく、他人の手の内で転がされるのはもう懲り懲りだ。
「ぼくはもう疲れました。明日のこともありますのでここで失礼します」
ベイジルがにべもなく彼からの申し出を断った。
ロシュは赤い眼を大きく見開き、呆然とした面持ちでベイジルを見ている。
『信じられない』その言葉が彼から聞こえてきそうだ。
さもあろう、彼はスターリー同様に自信家で自惚れ屋だ。容姿も知能も自分が誰よりも優れていることを十二分に理解している典型的なアルファだ。
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